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北里大学薬学部発・初の研究開発型創薬ベンチャー!20代経営者と名誉教授が目指す、天然物由来の新規医薬品の社会実装
北里大学薬学部発・初の研究開発型創薬ベンチャー!20代経営者と名誉教授が目指す、天然物由来の新規医薬品の社会実装

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。

第42回は、PRD Therapeutics株式会社 代表取締役社長の細田莞爾氏と社外取締役 供田洋名誉教授に登場いただき、担当キャピタリスト小林泰良からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

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【プロフィール】
PRD Therapeutics株式会社 代表取締役社長 細田 莞爾(ほそだ・かんじ)
北里大学大学院薬学研究科修了後、北里大学薬学部特任助教として天然物からの創薬研究に従事。NEDO主催のNEDO TCP2019に参加し優秀賞を受賞。その後、東京都が支援するアクセラレータプログラムBlockbuster TOKYO 2019への参加を経て、2021年9月にPRD Therapeutics株式会社を設立。

PRD Therapeutics株式会社 社外取締役 供田 洋(ともだ・ひろし)
東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了後、社団法人北里研究所 研究員、室長、北里大学大学院感染制御科学府 教授、北里大学薬学部 教授を歴任、定年退官後も特任教授として活動。この間、微生物起源の新しい有用機能分子(特に脂質代謝や感染症領域)の探索、作用機構の解析など基礎研究に取り組む。「PRD001」始め、これまで100種類以上の新規化合物を発見。 北里大学薬学部 名誉教授。

【What's  PRD Therapeutics株式会社】
PRD化合物による新規脂質代謝性疾患 (HoFHやNASH/NAFLD等) 用医薬品の研究開発を行う北里大学薬学部発の創薬ベンチャー。北⾥⼤学薬学部の供⽥洋名誉教授らの研究グループによって発見された有望な創薬シーズの実用化を目指す。細⽥莞爾講座研究員と供⽥洋名誉教授が創業者となり、同社を設立。



Portfolio


有望な創薬シーズ「PRD001」による新規医薬品の実用化

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ーPRD Therapeutics社の事業内容について教えてください。

細田 PRD Therapeutics社は、天然物由来の脂質代謝制御剤「PRD化合物」による医薬品を開発する北里大学発の創薬ベンチャーです。

私たちが扱っているのは「PRD化合物」の中で最も優れたプロファイルを持つ「PRD001」と呼ばれるもの。この「PRD001」による医薬品開発は、脂質代謝異常の疾患のうち、未だアンメットメディカルニーズのある、患者が少ない"希少疾患"の家族性⾼コレステロール⾎症ホモ接合体 (以下「HoFH」) の治療を大きく前進させるものだと考えています。

ー脂質代謝異常は生活習慣病のイメージが強いですが、"希少疾患"に当たるのでしょうか。

細田 おっしゃる通りで、生活習慣病による脂質代謝異常患者が中心ではありますが、一方で、遺伝的要因が脂質代謝異常を引き起こす希少疾患が存在しています。発生率は17~30万人に1人で、指定難病にもされています。早期から動脈硬化が進み、30代で脳梗塞や心筋梗塞の発生リスクが高まると言われています。

これまでに多くの脂質代謝制御剤が開発されてきましたが、生活習慣病の患者を対象にしており、HoFHの患者においては有効でないことや十分な効果が得られなかったことが報告されています。

ーそうなんですね。HoFHの患者は、現状どのような治療を受けているのでしょうか。

細田 脂質代謝制御剤が使えないHoFHの患者には1~2週間ごとに通院してもらい、機械を使って血液をろ過する「血漿交換療法」など大掛かりな治療を行っているのが現状です。通院の手間、治療時間などを考えると本人の負担はもちろんのこと、家族の負担も大きなものになっています。病院にいかず自宅で薬を飲むことで治療ができれば、患者や家族にとってより充実した生活が実現できると考えています。

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ー「PRD001」について、もう少し詳しく教えてください。

細田 「PRD001」は今から30年ほど前、北里研究所 ⼤村智特別栄誉教授の元で、PRD Therapeutics社外取締役を務める供田先生らが神宮外苑付近の⼟壌から採取した真菌 (カビ) の培養液中より発⾒した新規化合物を元に、北里大学の教授らによって最適化する過程で合成した化合物です。

「PRD001」の有効性についてはサルを含む各動物試験で証明されていて、これまでにない作用メカニズムによって⾎中脂質量 (LDL-コレステロール等)が強⼒に減少。脂肪肝や動脈硬化の進行を抑えることが明らかになっています。

天然物由来の新規「脂質代謝制御剤」による医薬品を社会実装することで、将来的には「HoFH」だけでなく、⽣活習慣病の⼀種である⾮アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、⾮アルコール性脂肪肝炎 (NASH) に対しても、画期的な治療薬になると考えています。

ー細田さんが起業しようと思ったきっかけを聞かせてください。

細田 私は北里大学の出身で、学生時代は供田先生のラボに所属していました。大学院薬学研究科を修了した後は、特任助教として天然物からの創薬研究に従事し医薬品開発に興味を持ちました。その後は一般企業への就職という選択もありましたが、供田先生らの研究グループが開発を行ってきた有望な創薬シーズ「PRD001」の実用化に苦戦し続けている現状に違和感を覚え、どうにか医薬品として形にできないか、これによって救われる患者さんが多くいるのではないか、と考えるようになりました。

ー苦戦し続けている状況とは?

供田 脂質代謝制御剤の歴史を見てみると、圧倒的な地位を築いていた「スタチン系薬剤」があり、多くの製薬会社は"ポストスタチン"として、それに代わる化合物を開発していた時代がありました。しかし、多額の開発費用を投資するもなかなか成果につながらず、段々と探索研究そのものを消極的に捉えるようになっていきました。その中で、私たちが「PRD001」の特性や可能性を製薬会社に提案しても、ヒトでのデータなど製薬会社が求める高い条件までは大学の研究だけではクリアできず受け入れてもらえない状況があったんです。

「PRD001」による医薬品化は難しいのだと半ば諦めてしまい込んでいたのですが、今から4年前の2019年頃だったと思います、細田から、これまでの"ポストスタチン"としてのアプローチではなく、希少疾患からのアプローチに変更し自分たちで「パイプライン型」の創薬ベンチャーを立ち上げ、PRD001を製薬企業が求めるレベルまで開発するしかない、という話をもらいました。_DSC1456.jpg

ーそこから2年後の創業まで、どのような準備を進めていたのでしょうか。

細田 創薬ベンチャー設立に向けた活動として、起業を支援するイベントやプログラムに積極的に参加していきました。その一つが、NEDO主催の「NEDO Technology Commercialization Program 2019」で、優秀賞を受賞することができました。他には、「ResearchStudio 2019」でGlobal Entrepreneurship Awardを受賞、東京都が支援する創薬・医療系ベンチャーに特化した育成支援プログラム「Blockbuster TOKYO 2019」にも参加しました。いくつかの賞をいただく中で、自分が目指す方向性が間違っていないのだと自信を持つことができたんです。

そして、このような活動の中で出会った⼤鵬薬品⼯業株式会社のコーポレート・ベンチャーキャピタルである⼤鵬イノベーションズ合同会社と、2020年8月よりインキューベーションのための共同研究をスタート。起業の見極めと定義して、1年間「PRD001」の不⾜している安全性や薬物動態などの様々なデータを取得すると共に、臨床試験や対象疾患の選定を含む開発戦略や体制整備、知財戦略の策定を実施していきました。

ーこの期間で実用化に向けたデータの収集、開発戦略・知財戦略の構築が固まったわけですね。

細田 本当にそう思います。⼤鵬イノベーションズ合同会社は、製薬会社のコーポレート・ベンチャーキャピタルなので製薬会社の求めるレベルで「PRD001」の実用化に向けた実施体制や試験計画を構築することができました。大学で取得していた研究データと、製薬企業が求める研究データで大きな乖離がある中で、そこを一緒に乗り越えていくことは非常に価値あることでした。最終的に、製薬会社レベルで設定していたいくつもの厳しい目標項目を全て達成でき、2021年9月に設立する流れとなりました。


先入観なく「サイエンス」と「戦略」で判断してくれたジャフコ

ージャフコから見た、PRD Therapeutics社の第一印象は?

小林 初回のWeb面談で「PRD001」の薬剤プロファイルに可能性を感じて直接お会いすることにしたのですが、細田さんから実用化に向けた事業戦略をお聞きして、"これはいける"と実感しました。

私が素晴らしいと感じたのは、明確なエビデンスにより客観性が担保されている点です。感情論や先入観ではなくこのデータは何のために必要なのか、なぜこの臨床デザインにしているのか...ゴールからの逆算で設計されていて、"サイエンスで未来が語れるCEO"と感動しました。加えて創薬の事業戦略に関しても、アメリカでは当たり前の基本戦略を取り入れることができているところが印象的でした。

その後、最大の課題と考えていた臨床試験に関する詳細なデザインとバイオマーカー戦略を出してもらったところ、求めていた水準が揃っていた。再度お会いした第一声に、「検討へ進みます」と伝えたことを覚えています。そこから1ヶ月程度で投資委員会の決裁を得て、急いで他の投資家の方々とのシンジケーションを行い、細田さんたちが求めていた調達規模とスピード感に答えられたと思っています。

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細田 小林さんが評価してくださった事業戦略や臨床試験設計のクオリティは、シードラウンドで⼤鵬イノベーションズ合同会社と共に着実にデータを積み上げていったところが大きかったと思います。ボストンで臨床開発の専門家として活躍されているスペシャリストを紹介してもらい、アドバイザーとして参加してもらいました。

その方とのやり取りを経て最先端の戦略を立てることができました。最近はアクセラレーションプログラムが充実しており、海外に行ける機会も増えてきました。そこでアメリカの著名なHoFHやNASHの専門医にインタビューすることができ、臨床開発戦略が間違っていないことを確認しました。

小林 そのネットワークの強さも細田さんの能力ですよね。各分野トップレベルの方々から素晴らしいアドバイスをもらえる関係が築けている。サポートやフォローという言葉にしてしまうと受け身の印象が強いですが、細田さん自身が適切に選んで自分ものとして取りこみマネジメントしているものだと思います。

一流の人を一流と判断したのは細田さんですし、事業成功に向けて必要な信頼できる専門家を見極めて戦略を具現化できる力は経営者に求められる重要な資質の一つだと考えています。

供田 彼とは学生の頃から共に時間を過ごしていますが、研究者としてはもちろんですが、経営者としての能力を持っていると感じますね。それぞれのスペシャリストから多くのことを学び、素直に吸収していく。だから、会社のことは全て彼に任せているんです。あなたが考える方向で思い切りやってみてくださいと伝えていますね。

ー細田さんのジャフコに対する印象は?

細田 私たちが実現したいこと、それを叶えるための方法を理解していただけたと感じています。私たちはPRD001を中心としたパイプライン型の創薬スタートアップで、最終的にはPRD001を実用化してくれる製薬企業へのM&Aを目指しています。

しかし、日本での主流はプラットフォーム型スタートアップでIPOを目指すものであり、パイプライン型の創薬スタートアップの成功例が少ないことや、M&Aの実績が少ないこともあり、VCによっては投資対象にならないケースもありました。

また、M&Aを目指す上で少数精鋭のチームビルディングを意識していましたが、CXOクラスが複数名いるチームでないと投資対象にならないケースも少なくありませんでした。

その中で小林さんは先入観なく、私たちの「サイエンス」と「戦略」で判断してくれた。こういったやり取りの中から生まれた信頼感こそが、ジャフコにお願いしようと決めた理由です。


「天然物からの創薬」の価値を証明し、一人でも多くの患者を救う

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ー今後の取り組みについて教えてください。

細田 2023年9月シリーズAラウンドで、ジャフコをリード投資家として13億円の資金調達を実施しました。その目的は、Phase1の「ヒト(健常人)での臨床試験」の完了です。

これまでサルを含む各動物試験は実施していますが、ヒトでは行われていません。私たちはPhase1の結果を元に製薬企業とディールができるようにしたいと考えていますが、そのためには製薬企業がPhase1に求めるものを理解する必要がありました。そこで、製薬企業出身のアドバイザーと共に綿密にPhase1試験のデザインを検討してきました。

製薬企業はPhase1の結果を元に、Phase2以降の成功確率、特に患者さんへの有効性、がどれくらい期待できるかを見極めたいということがわかったため、今回立てたPhase1試験のデザインでは、HoFHとNASHのPhase2以降で用いられる主要/副次評価項目を測定し、Early Signs of EfficacyをPhase1が終えた時点で得られるようにすることで、Phase2以降の「ヒト(患者)での臨床試験」の効果を早期に予測することを可能としました。

実用化から逆算した設計を立てそのロジックを評価してもらい、必要な資金調達ができたと理解していますので、この先は粛々と開発を進めていく段階だと捉えています。

ー最後に、経営者として成し遂げたいことについてお聞かせください。

細田 1つは経営者として成功し、日本のベンチャーエコシステムを盛り上げる存在になりたいですね。パイプライン型スタートアップやM&A EXITの成功例を作ることができれば、多様性が広がると思います。
若さを生かして何度もチャレンジしていくことや周りの若手を巻き込むことでエコシステムを活性化したいです。現在も学生と話をする機会が多くありますが、彼らが就職を考えた時にまずは製薬企業か薬剤師か...そのあたりを第一想起する。会社員をイメージする学生がほとんどの中で、ベンチャーという選択肢もあるのだと伝えていきたいです。

一般的に創薬というと60歳・70歳の大ベテランじゃないと難しいのではないかと思われていますが、そんなことはない。若手でもやれると伝えたい。北里大学発、薬学部初の創薬ベンチャーが示せる未来は大きいと考えています。

それから、研究者として、日本の製薬企業が昔は得意としていた「天然物からの創薬」がまだまだ可能性を秘めているということを証明したいと考えています。残念ながら現在では多くの製薬企業は天然物創薬から撤退していますが、だからこそ大学では続ける必要があると思っていました。
 
これは供田先生が研究ポリシーとしてずっと大事にされてきた「大学は製薬企業がやらないことをやる」ことでもありますし、私がそれを受け継ぎつつ製薬企業へ橋渡しすべきものだと思っています。天然物の素晴らしさを証明し、優れた化合物による医薬品を生み出す。そして、一人でも多くの患者に届けていきたいと思います。

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担当者:小林 泰良からのコメント

VE_kobayashi_1224.jpgPRD Therapeutics社はサイエンスデータに基づいた、純粋なパイプライン型の臨床開発スタートアップです。明確なアンメットメディカルニーズに対するクリニカルサイエンスを証明するため、前臨床データと臨床戦略を描けるネットワークを揃えて必要資金の調達を達成しました。今後はより多くの患者さんへいち早く確実に「PRD001」を届けるため、薬剤価値を最大限に証明する細田さんたちの挑戦を引き続き応援していきます。