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WACULとビジョナル 新興上場企業から学ぶ組織課題と対処法
WACULとビジョナル 新興上場企業から学ぶ組織課題と対処法

経営における『失敗』がテーマの本連載。今回は、そんな経営の失敗を防ぐために起業家の方々が知りたい情報を調査するべく、ジャフコがシード・アーリー期の会社を経営する起業家の皆様へアンケートとインタビューを実施させていただきました。(※詳しくアンケート結果を知りたい方はこちら)


今回の起業家アンケートとインタビューを通して、

①起業家にとって『会社としてまだ迎えていないフェーズの問題やその事例』は身近では得ることができない知見である
②先人の事例を知ることで、今後の会社経営にまつわる「漠然とした不安」を解消したいというニーズがある

という起業家のインサイトがわかりました。


スタートアップの起業家は、経営の失敗は未然に防ぎたいけれども、限られたリソースの中で、目の前の経営課題に対処することで精一杯の起業家が多く、だからこそこの「起業家の失敗学」でジャフコのトラックレコードやネットワークを活かして、先人たちの失敗事例とその対処法をお伝えしていきたいと感じております。

今回は、このアンケート結果において「人・組織」に関する興味が高かったことから、「シード~レイター期の組織の変遷」に焦点を当てた記事をお届けします。具体的な事例をシェアすることで、多くのスタートアップが直面する「人・組織」に関する失敗を防ぐ一助になれば幸いです。


シードからレイターまで、フェーズごとに異なる組織形態

まず、スタートアップの各ステージの定義や必要な人数は事業や領域により様々ですが、今回は「メンバーの人数」を軸に組織形態を分類していきましょう。各ステージでの組織形態は、下記が想定されます。

シード期(~20人前後):経営者がメンバーを直接マネジメントする、鍋蓋型組織
図1 (1).jpg



アーリー・ミドル期(20~100人前後): 鍋蓋型組織にマネジメント層を入れたピラミッド型へ移行する過程の組織形態

図20715.jpg



レイター期(それ以上): 各部門ごとに、マネジメント層が複数存在するピラミッド型組織

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シード期は人数の少なさゆえに経営陣が直接メンバーを理解し、マネジメントできる組織形態です。アーリー、ミドル、レイターと会社のフェーズが進むにつれて、「組織の階層」が増えていきます。では、会社のステージが進む中で組織には一体どのような問題が生じ、それに対してどのような施策を講じることで乗り越えられるのでしょうか?

ジャフコの出資先企業様の具体的な事例をもとに、フェーズごとに「ぶつかった壁」と対応策をシェアできればと思います。



まとまりを失った組織...MVVの刷新とマネジメント層の強化で課題を解決

まずは、「アーリー・ミドル期」の具体例として株式会社WACULの例をご紹介します。WACUL社はデジタルマーケティングのデータ分析・改善提案を自動で行うツール「AIアナリスト」や「DXコンサルティング」等、マーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する会社です。弊社は2015年に出資させていただき、2021年にマザーズ上場を果たしました。

ぶつかった壁:プロダクトは伸びていたものの、組織構造の変化や事業方針の転換が重なって組織としてのまとまりを失っていた

当時、WACUL社のメンバーは数十人という中で、創業社長が退任し、経営が創業副社長(現・CEO)へと引き継がれるという事態が発生しました。結果として、社内に不安感が立ち込め、組織としてのまとまりがなく、目の前の仕事をこなすことで精一杯になってしまったそうです。

では、上記のような危機をWACUL社はどのように乗り越えたのでしょうか?

WACUL社の採った施策
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一つ目は、会社が目指す方向性を改めて設定したことです。WACUL社は「人の課題解決能力の最大化・生産性の最大化を追求し続ける会社である」という軸を定め、MVVに落とし込みました。自動化できることは限界まで自動化し、人は人にしかできないことにフォーカスすることを大切にしており、それを「AIアナリスト」というプロダクトだけでなく、組織運営・人材獲得においても徹底していきました。

また、そうした新しいMVVを全員に浸透させるために、日常でもそうした言葉を使い、また評価制度にも取り込みました。そうして、目の前の事ばかりに囚われるのではなく、「会社の未来を考えた施策を各メンバーが考え、行動する環境」を作ることで、組織としてのまとまりを取り戻し、ひとりひとりの成長を促し、組織力を底上げしました。

二つ目は、人が増える中で経営陣がメンバー全員をマネジメントすることは非効率となったため、「経営陣とメンバーの間に入るマネジメント層の構築」を進めました。同時に現場への権限委譲も進めました。 これも社員自身が会社の成果と向き合える状態をつくり、社員の成長機会を最大化することに繋がります。

三つ目は、「部門責任者となる人材の育成・採用」を進めました。内部人材の育成はもちろん、外部人材の採用にあたって一つ目で定めた組織運営の方針を徹底し、採用のミスマッチを防ぎながら組織を拡充していきました。

経営陣は、こうした施策をとおして、社員自身が会社の成果と向き合える状態をつくり、社員の成長機会を最大化することに強くコミットしていきました。



人事システムの再構築企業カルチャーの社外発信」で大規模な意識統一

続いて、レイター期の例としてビジョナル株式会社の例です。ビジョナル社は人材スカウトプラットフォーム『ビズリーチ』を筆頭に、HR領域のSaaS事業、事業承継M&A事業、SaaSマーケティング事業等を行う会社です。弊社は2010年に出資させていただき(当時は株式会社ビズリーチ)、2021年にマザーズへ上場を果たしました。

ぶつかった壁:

複数のマネジメント層の強化が間に合わなかった

②地理的な分断により全社で同じビジョンを共有することが難しくなった

③属人的な人事評価が機能しなくなった

一つ目は、事業の急拡大によりメンバーは100名を超え、マネジメント層を複数レイヤーに移行することが急務でした。しかしながら、急拡大のスピードが内部でのマネジメント人材の育成、外部からの採用スピードを上回る状態となっていました。

二つ目に、複数拠点の展開によりメンバーが同じ方向を目指す状態を作りにくくなるという問題も生じました。

三つ目には、それまでは異動・昇進といった人事施策の決裁者がメンバー全員を把握し評価を下すことが可能でしたが、人数増加によりそのような属人的な評価体系に限界が来ていました。

上記の数多くの課題一つずつに対し、ビジョナル社は根本から解決する施策を打っていきました。

ビジョナル社の採った施策
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一つ目は、ミドルマネジメントのレイヤーが増えるにあたって、育成や評価の目線を合わせることを目的に各層の「人事評価基準」を明確にしたこと。各メンバーが求められる成長と現状のギャップを認識し、自走できる環境を整えました。

二つ目は、「ビズリーチ・ウェイ」をバージョンアップして公開したこと。ビジョナル社が目指す世界観を公開することで、採用候補者への採用前からのビジョンの共有・浸透を図りました。これにより、採用時から互いのミスマッチを防止することが可能になりました。

三つ目は、システム化することで「メンバーの情報管理を一元化」したこと。採用~人事評価まで一貫して管理が可能になることで、情報の管理工数が大幅に削減されました。



組織課題を解決して上場を掴み取ったWACUL、ビジョナルの共通点とは

アーリー・ミドル期のWACUL社とレイター期のビジョナル社、領域もフェーズも異なる会社ではあるますが、「人と組織」がもっとも重要な経営課題でありました。この異なる2社の具体例を見てきましたが、下記のような共通点を見出すことができるのではないでしょうか。

<規模拡大による状況変化>

・企業の成長に応じて組織構造における新たなレイヤーを増やすことが必要
・レイヤーを増やすために、新レイヤーを担う人材採用が必要になる
・複数レイヤーになることでメンバーの意識統一の難易度は上昇する

<変化する状況に対して求められる施策>

・MVV(Mission、Vision、Value)の整備、アップデートにより各メンバーが進むべき方向を統一する
・規模拡大において鍵を握るのは「マネジメント層の採用」

前者のMVVの整備・浸透による「同じ方向、世界観の共有」は一つの組織として一体感を持って事業を進める中で必須といえますし、実際にWACUL社、ビジョナル社の事例からみても、まず組織の変遷に対する対策のベースとして行うべきことだと考えられます。

また、後者の組織の規模拡大において鍵を握る「マネジメント層の採用」については、各フェーズで求められる人材は異なると考えられますが非常に重要なファクターであることは間違いありません。

今回は組織の変遷について考えてきましたが、次回はこの「マネジメント層の採用」に焦点を当て、一体どのような要素に分解できるのか、各社がそれぞれのフェーズでどのような要件を持ち、採用を進めたのかについて深掘りしていきたいと思います。