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日本のアントレプレナーシップは世界最低水準!? 「失敗への恐怖心」を乗り越える方法
日本のアントレプレナーシップは世界最低水準!? 「失敗への恐怖心」を乗り越える方法

アントレプレナーシップ(起業家精神)というワードが比較的ポピュラーになってきた昨今、日本のアントレプレナーシップの水準は世界と比較するとどうなのでしょうか?本日はアントレプレナーシップの世界的なトレンドを調査しているグローバルアントレプレナーシップモニターレポート(Global Entrepreneurship Monitor Report、以下「GEMレポート」)の調査データを元に、「起業家の失敗学」について考察していきたいと思います。

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(Source: GEM 2019 / 2020 Global Report: https://www.gemconsortium.org/file/open?fileId=50443)

2010年に、日本が世界経済で米国に次ぐ経済大国第二位の地位を中国に明け渡してから、早くも10年が経過しました。「平成」と呼ばれた30年間は「失われた30年」と言われ、バブル崩壊後のデフレ期の辛酸をなめるかの思いで耐え忍んできた日本。バブル期には、「世界の時価総額ランキング50」で日本企業が32社占めていたものの、現在ではわずかトヨタ自動車1社が何とか食らいついている状況です(ダイヤモンド社:https://diamond.jp/articles/-/177641?page=2 参照)。しかし、昨今の日本企業は世界第三位の経済国の地位を保持すべく、各産業界ではイノベーションを軸にした企業変革、成長戦略に躍起となっています。

一方、日本のスタートアップの活躍はどうでしょうか。当社ジャフコ グループの前身が設立されたのが1973年で、日本で初めての「ベンチャーキャピタルブーム」が訪れた時代でした(当社は当時日本で4番目のベンチャーキャピタル。現在、先行していた3社は姿を消しているので実質的に日本で最も歴史のあるベンチャーキャピタルとなっています)。それまでの日本産業界を支えてきた中小企業だけでなく、「スタートアップ」という存在が各界で認識されるようになりました。

「起業家」や「実業家」というワードは今となっては若手成功者の代名詞ともいうべきワードになっています。一方で、「アントレプレナーシップ」や「アントレプレナー」というワードは日本では比較的新しく、スタートアップと関わりが薄い方々にとっては、あまりなじみのない言葉かもしれません。

世界では「アントレプレナー」という言葉は以前から存在していたものの、アントレプレナーに関する研究やレポート等歴史的な考察がされている分野ではありませんでした。しかし、今回冒頭でもご紹介した「GEMレポート」が2000年に世界各国のアントレプレナーの動向を調査したレポートを作成し、2011年からは毎年リリースされています。世界のアントレプレナーのトレンドや起業しやすい国・エリア等を紹介することで「アントレプレナーシップ」の重要性を経済界・グローバルな世界で浸透させることを目的に進められています。

そのGEMレポートの中で、日本がどのような評価を受けているのかを確認してみたいと思います。様々な考察がされていますが、主に意識調査のところを抜粋すると以下のような調査結果です。

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最新レポートの2019/2020版では、驚くべきことに意識調査項目の4/6で調査50カ国中最下位となっています。起業が容易かの質問でも49位でほぼ最下位。唯一、中盤を押さえたのが「失敗への恐怖が理由で起業しない」(Fear of Failure)の項目でした。

約10年前の2011年と比較してみると、当時と全く同じ構成のランキング結果です。例外的に、Fear of Failureの項目のみ低ランクのレンジだったものが中盤まで何とか上昇してきたのが見受けられます。これはバブソン大学や日本を含めたトップビジネススクールでのアントレプレナーシップ教育の広がりと大学発ベンチャーの活躍等が成果として現れているとスタートアップ業界では称賛の声が広がっています。

しかし、全体的に日本は意識調査項目の6分の5でほぼ最下位という結果でした。身近に起業家がいるかどうか、起業を考えた時の機会やリソースはあるか、あるいは手続き上の問題、また教育・経験・スキル等々、全てにおいて日本人が持つ「起業」というワードに対する意識が世界レベルでは非常に低いということがわかります。起業そのものに興味があるか否かという質問で最下位であることが、日本人の持つアントレプレナーに対するイメージを集約しているように思えます。
一方、Fear of Failureの項目だけが最下位ではないことが一つ我々の環境や意識に示唆を与えてくれているように捉えることができます。直感的な印象としては、「安定志向の日本人だから失敗を理由にチャレンジしない人が多そう」という声が聞こえてきそうですが、決して世界上位とは言えないものの、この10年間で「失敗を理由に起業しない」という風土に対しては確実に改善が見られています。

特に、ハイテク分野では、アジャイル等の開発手法で大企業に負けず劣らず、大胆な戦略で事業拡大をしているスタートアップが日本でも出てきています。最近では10億円等の大規模な資金調達を行って事業拡大を狙う起業も増えてきました。ある特別な一社だけでなく、複数のスタートアップが各領域で活躍している現状を鑑みると、失敗への恐怖心に関する項目が改善していることも直感的に理解できると思います。
とはいえ、まだまだ世界レベルでは失敗に対する許容度が低く、失敗への恐怖心が高いと考えられる日本ですが、Fear of Failure以外の項目について、なぜこんなにも不名誉な結果が継続しているのでしょうか。スタートアップと関わりの薄い多くの方々は、周りに起業している知り合いもいない、起業の仕方なんて学校で教わっていないため、そもそも起業なんてしようという考えが浮かぶわけがないのです。「起業と言っても、何をすればいいのかわからない」ということに尽きると思います。

この点は、日本社会全体の非常に大きな課題であり、一昼夜で解決できるものではありません。そのため、今回は「チャレンジしたいという気持ちを持っているがどうチャレンジすればいいのかわからない」と二の足を踏んでいる方向けに次章で起業における「失敗」の何に恐れ、それを解消するためにはどのような準備が必要なのかについて考察していきたいと思います。



失敗への恐怖心「Fear of Failure」では測れない?日本人の"リスク(既知)"への恐怖心

ここまでGEMレポートのデータを元にアントレプレナーに関する日本の立ち位置を確認してきました。そこでの考察から、ここでは日本人が本当に恐れている「失敗」とは何かについて深掘りしていきたいと思います。

皆様は、チャレンジしたいけど失敗が怖い、周囲に止められる等チャレンジすることへの恐怖心を感じた時、自分自身が具体的に「何が起こること」を恐れているのかを考えたことはありますか?資金面?世間体?組織関係?家族関係?...数え出すとキリがないと思います。

しかし、果敢にチャレンジしている人たちは、そのチャレンジから「何を得られるのか?」を常に意識しています。彼/彼女たちにとって、「失敗」もチャレンジから得られた成果物」であることに変わりありません。そのため、たとえ失敗しても次のチャレンジへとその失敗を有効活用できるのです。「そんなの当たり前でしょ」、「言われなくてもわかっています」という声が聞こえてきそうですが、ポイントは彼/彼女たちは「失敗」ですら「成果物」、つまりそのチャレンジで何を得たいのかが「明確」ということです。失敗自体、想定内、想定外に拘わらず、そのチャレンジを経て、得たかった「情報」なのです。チャレンジした結果から得られるであろう「成果物」を「明確」に認識(あるいは仮説設定)するためには、彼/彼女たちはその時点で可能な限りの事前準備をしています。事前準備とはその成果物が「未知」のものであることを確信するために、知らないこと(ここでは「未知(Uncertainty)」と異なる「既知(Unknown risk」として明確に区別します)を徹底的に洗い出し、把握・理解します。

日本人は「リスク」と聞くと「危ない」という意味が真っ先に浮かぶと思いますが、本来は「結果がある一定程度変動する可能性がある」という意味です。海外では未知(Uncertainty)と既知(Risk)は明確に異なるものとして一般に理解されています。リスクを正確に把握できれば、自身が許容可能な範囲でリスクを取ってチャレンジすることが出来ます。

あなたが失敗を頭に思い浮かべるとき、それは未知ですか?既知ですか?未知のものである場合、あなたの成長戦略の中でそのチャレンジによって得られる成果物をどう評価しますか?



失敗への恐怖心 vs. 未知への好奇心

私たちは失敗を恐れて一歩踏み出せずにいるとき、具体的に何に恐れているのか?どうすればその恐怖心を払拭できるのか?...気合?根性?チャレンジ精神?もちろんそのような要素も必要ですが、具体的に失敗への恐怖心を払拭するための処方箋はないのかということについてここまで議論してきました。バブソン大学ではリスクファクター(既知要素)の洗い出しはMBAコースの授業でも徹底的に行います。ここで一旦、「リスク(既知)」と「Uncertainty(未知)」の違いを見てみましょう。

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(参考文献:https://www.businessinsider.com/difference-between-risk-and-uncertainty-2013-3
https://www.econlib.org/library/Knight/knRUP.html

また、現代はVUCAH*の時代と言われています。問題解決のプロセスにおいても、下記の図ののような課題理解、解決策理解のようなプロセスを時系列に、Ambiguity(曖昧)⇒ Uncertainty(不確実)⇒ Risk(変動性)というステップで考える場合もあります。

*VUCAH: Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧)、Hyper-connectivity(ハイパーコネクティビティ)の頭文字を繋げた造語

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不確実性が高まっている世の中でリスクを恐れていては前に進みません。

しかし、この言葉の意味は、根拠のない無謀なチャレンジを推奨するものではありません。不確実性が高まっているという言葉の裏には、DXによる業務のデジタル化や効率化によって「Unknown risk」が可視化され、今まで捉え切れていなかったリスクを把握することが出来るようになり、本当の未知「Uncertainty」に直接晒される状態になっているということです。少しアカデミックな言い回しになりましたが、把握・分析出来るリスクの範囲が広がっているということです。それは経営判断を迫られる経営者の方が今まで見過ごしてしまっていたリスクを把握できるようになってきたということに他なりません。

これは一見すると、判断材料が増え、的確な判断が出来るようになる良い傾向だと思われます。確かにそのような側面があることも確かです。しかし、高度に可視化されたリスクマネジメントでは対処できない事象、すなわち過去のパフォーマンスの延長線上に未来があるというプレディクティブな考え方では対処できない世界に晒されているのも事実です。そのような世界では、クリアクションという考え方が今後重要になってくると思うのです。クリアクションとは、手元にあるリソースを使い、損失許容範囲を定め、その範囲内で行動する。行動しながら学びを繰り返すことで不確実な未来に柔軟に対応しながら進んでいく行動方式を言います。

 
 『積極的にリスクを取り、失敗を含めたチャレンジ・学びの効果を最大にする。常に最適なピボットや方向転換を意識し、ひとつひとつの挑戦の質を高める意識を持つ。』

この考え方を使いこなしていくためには、まずはリスク(既知)とUncertainty(未知)の区別、自身にとっての失敗の明文化を通して、チャレンジできる環境を経営者自ら、また会社全体で進めていく必要があるでしょう。そして、GEMレポートでの日本の不名誉な評価を見返してやるという気概をもって、アントレプレナーの皆様だけでなく周囲の家族、友人、同僚も日本のアントレプレナーシップを一歩前に進めるためにチャレンジしていきましょう。ベンチャーキャピタルである我々もその一助となれるように邁進します。