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起業家にとって「挑戦しないこと」が一番の失敗! 「先行優位性」という言葉がもたらす思い込みの罠
起業家にとって「挑戦しないこと」が一番の失敗! 「先行優位性」という言葉がもたらす思い込みの罠

「& JAFCO POST」編集部の清田と申します。

起業家教育全米No.1・バブソン大学とともに、起業に関する論文や事例を基に「失敗」にフォーカスした連載 起業家の「失敗学」。
今回は、「先行優位性」という言葉がもたらす思い込みの罠をテーマに、起業家や起業を志す皆様に役立つ情報をご紹介させていただけたらと思います。

「先行しているプレイヤーを理由に挑戦しないこと」が一番の失敗

「先行優位性」という言葉をよく聞きますが、それが原因でビジネスを諦めてしまうことはありませんか?本当にそうなのでしょうか。

現実のビジネスを見てみても、楽天のECや、ホンダのバイク、八橋の「おたべ」等の後発参入企業が先行者を追い抜いています。

「先行優位性」という分野はアカデミックな観点で様々な研究がなされていますが、どの業界/業種にも当てはまる絶対法則ではありません。「先行者がいるからこのビジネスは難しいだろう」と思い込んで挑戦しないことが一番の失敗であると私たちは考えています。

今回は、そんな「先行優位性」という言葉がもたらす「思い込みの罠」を回避するためにはどのような発想を持つべきかについて、アカデミックな観点と実際の事例を用いながら紹介していきます。そもそも、「先行優位性」とは何なのでしょうか。「先行優位性」の理論として有名な論文の1つに、Leberman and Montgomery(1988)の「First Mover Advantages」がありますが、この論文は以下の4つの「先行優位性」を指摘しています。

図①.jpg

出典:Lieberman & Montgomery(1988)/Lieberman(2002)/Burnham,Frels,&Mahajan(2003)を基に作成(「ネットワーク外部性」に関しては2002年の論文にて追加で言及)


今日のようなデジタル化時代では技術の進歩が速いため、先行企業といえども常に優位性を維持できるわけではありません。特に市場の変化が激しい場合には、ターゲットとする顧客ニーズの変化も激しいことから、経験の蓄積が活かされないことも多くあります。

実際に「先行優位性」を考える上ではその事業ドメインの市場及び技術の成長速度を考えてみる必要があります。下記に市場の成長速度と技術の発展速度を基にマトリクス図を作成しました。

図②.jpg

出典:harvard business review 「The half-truth of first-mover advantage」を基に作成


以下では上記の表を基に、実際の事業(各事業拡大時のモデル)での事例を当てはめていきます(時代により該当するセグメントは常に変化していきます)。

ユニクロ、楽天、テスラモーターズも後発企業だった

①低成長モデル(緩やかな市場成長と緩やかな技術発展)

市場と技術が徐々に成長していく領域では先行企業は最も優位性を保ちやすいです。
市場成長ペースが遅い場合、新しい市場セグメントの開拓と顧客を満足させるための時間が先行者には与えられます。また、技術発展が漸進的なペースである場合、後の参入者が先行企業のものから自社製品を差別化することを困難にします。
したがって、この領域ではブランディングやマーケティングによる見せ方で、いかに使い続けてもらえるかが重要になります。

実際の企業でいうとアパレル小売業のユニクロ(ファーストリテイリング)が当てはまるでしょう。ユニクロは「ライフウェア」というセグメントで圧倒的な強さを見せており、国内で追随する企業は今のところ現れてきていません。

②マーケット成長モデル(速い市場成長と緩やかな技術発展)

市場が大きく拡大している一方で、必要な技術が既存のもので間に合う場合、先行企業の優位性を築くのは簡単ではなく、戦略が必要だと考えられます。このモデルは、初めて使う製品としていかに多くのユーザーに届けられるか(例えば、製品を大量生産できる資金力、マーケティング戦略等)が重要な要素だからです。

実際の企業でいうと、レンタルビデオ業が急拡大したゲオホールディングス(GEO)や、医薬分業により急拡大し、現在も調剤薬局市場のトップランナーであるアインホールディングス、ウェアラブルカメラのGopro等が挙げられます。

③技術発展モデル(緩やかな市場成長と速い技術発展)

市場が徐々に成長する一方で、早いスピードで技術発展が起こる領域では、先行企業の優位性はほとんどないと考えられます。技術変化が急進的である場合、新技術で他社と差別化/顧客のスイッチングをすることが可能だからです。また、新技術によって市場自体がリプレイスされうる特徴を持つといえます。この場合の重要な要素は、市場が来るまで待てる資金力と高い技術力になります。

実際の市場でいうと、現像までが一般的であったフィルムカメラ市場が、データで保存するデジタルカメラという新技術によってリプレイスされたこと等が該当するのではないでしょうか。

④高成長モデル(速い市場成長と速い技術発展)

市場と技術が高速に成長する領域では、先行企業の優位性は非常に脆く、場合によっては不利であるとも言えます。まず製品の基盤技術が急激に変化するとその製品はすぐに陳腐化します。そして急成長している市場では、先行者が切り開いてきた市場を利用して参入することや、既存サービスの課題を解決したサービスの提供が可能です。
このモデルで「先行優位性」を築く事は非常に難しく、基本的には豊富な資金力のある大企業にしか出来えません。しかし、大企業の多くはイノベーションのジレンマからこの領域を取りこぼしがちです。そして、私たちが日々出資させて頂いているスタートアップの多くもこの④のセグメントに類する企業です。

実際の企業でいうと、黎明期のEC市場で後発ながらも戦略を工夫し逆転した楽天、電気自動車におけるテスラモーターズ、小型ドローン市場でのDJI等が当たると思います。

スタートアップが戦う変化が大きい市場では「先行優位性」はあまりない

いかがだったでしょうか。一言で「先行優位性」と言っても、市場の成長性や技術の発展速度によって優位性を発揮できない領域が多いというのが実態です。「先行優位性」は企業の成功や競争優位を築くことを可能にする数ある要因のうちの1つに過ぎないと言えるでしょう。
ラクスルの松本さんも「先行者利益はもはや存在しないのではないか?」と過去にICCサミットで仰っていますが、多くのスタートアップやJAFCOが出資させて頂いている企業は成長や変化が大きな市場で戦っています。そのため、市場における「先行優位性」というのはあまり存在していません。
「既に競合プレイヤーがいるから」という思い込みに囚われて事業を諦めて挑戦しないことが一番の失敗です。起業家の皆様が本記事によって今挑戦している事業を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

バブソン大学 山川准教授のコメント

「そんな製品(サービス)既にあるよ」はやらない理由にはなりません!

今回は「先行優位性という言葉がもたらす思い込み」というテーマでした。まさに起業家たちが陥りがちな「失敗」の代表的なもののひとつとも言えるのではないでしょうか。我々バブソン大学では、「自分は何がしたいのか」「世の中にどのようなインパクトをもたらしたいのか」、つまり「自己理解を深めることから起業道が始まる」と初回の記事でご紹介しました。本件についても、自身の思い入れのある業界・製品について、先行者の存在やその優位性だけを理由に事業を諦めるのはアントレプレナーとは言えないでしょう。

バブソン大学の起業家教育では、「常に世界をより良いものと変革できるように」というマインドセットを持ち、問題解決の為に邁進できる人材をアントレプレナーだと考えています。既存製品があるということは、裏を返せば需要があることの証明です。そこに少しでも新たな価値を付加できれば、それはもう十分にあなたがより良い世界の創造に向けて一歩前に踏み出すことができた証明と言えるでしょう。

バブソン大学の創設者である起業家ロジャーバブソンの言葉に "It is wise to keep in mind that neither success nor failure is ever final (大切なのは成功も失敗も最終ゴールではないことを心に留めておくことだ)" というものがあります。私も学生に対して常日頃 "Don't be afraid to fail; be afraid not to try (失敗を恐れるべからず、最大の失敗は挑戦しないことだ)" と伝え、行動を促しています。「そんな製品(サービス)既にあるよ」という言葉に、後ろ向きになるのではなくチャンスだと捉え、あなたの価値を、その製品、そのサービスに全力でぶつけてチャレンジしていきましょう!