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ゴールは「起業」ではなくマインドの醸成──立命館とジャフコが共同で取り組む、起業家教育の裏側
ゴールは「起業」ではなくマインドの醸成──立命館とジャフコが共同で取り組む、起業家教育の裏側

学生・生徒・児童の問題意識から生まれるチャレンジ精神を起点に、挑戦から起業までをシームレスに支援し、社会課題を積極的に解決する人材の養成を目指す──そんな目的のもと、2019年に立ち上がったのが立命館・社会起業家支援プラットフォーム「RIMIX」です。

次代を担う学生・生徒・児童らのユニークなアイデアを発掘し、育て、後押しすることで、社会に新たな価値を創造すべく、ジャフコも立ち上げ時から連携しています。

RIMIX立ち上げの経緯から、この取り組みを通じて実現したい未来について、立命館の酒井氏、ジャフコの佐藤に話を聞きました。

【プロフィール】

学校法人立命館 財務部 部長 酒井 克也

立命館大学産業社会学部を卒業後、立命館に2004年4月に入職。財務部門やAPUで勤務。財務部門では2012年以降資産運用を担当、2019年にRIMIXの取組み立ち上げがきっかけとなり、2021年の起業・事業化推進室の設置へとつながる。2020年人事部に異動、2022年4月に財務部長と総合企画部長(起業・事業化推進担当)になり、現在に至る。

ジャフコ グループ株式会社 執行役員ビジネスディベロップメント担当 佐藤 直樹

1992年入社。以来一貫して前線での投資EXIT活動に従事し、スタートアップ投資からバイアウト型投資まで多種多様な案件に関わりIPOのみならず、大企業との資本提携、M&Aを数多く手掛ける。 2018年パートナー就任。投資先のバリューアップ専門部隊を統括し、ジャフコのベンチャーキャピタルとしての有り様をブラッシュアップ。 2022年6月より執行役員 ビジネスディベロップメント担当。

「起業のマインドを醸成する」という立命館の想い

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──立命館・社会起業家支援プラットフォーム「RIMIX」を始めることにしたきっかけについて教えていただけないでしょうか?

酒井:私自身、もともと立命館学園の財務部門で資産管理・運用の仕事をしていました。その中で、学園が保有する価値や資産をどうすれば教育や研究に結びつけられるのかを考えるようになったんです。教職員や卒業生、金融機関の方々からアドバイスをいただいたところ、多くの方から「立命館大学の卒業生は社会課題の解決を目的に起業している方が多い印象がある」と言っていただけました。実際に、そういった目線で改めて見てみると、社会課題の解決を目的とした取り組みをしている学生が多いことに気づきました。

であれば、学園全体として学生・生徒や教職員、卒業生も含めて、社会課題を解決する取り組みを支援する機能があった方がいいのではないか。ファンド機能も結びつけて、教育プログラムなどもシームレスに展開できる取り組みとして、2019年から始めることにしました。

──こういった取り組みは大学で過去にあったのでしょうか?

酒井:取り組み自体は多くの大学でも行われていると思います。ただ、ほとんどは学部内やゼミ内での取り組みで終わってしまっている。RIMIXは学園が保有する2つの大学、4つの附属中高、1つの小学校を巻き込んだ取り組みになっています。小学校から大学までを巻き込んだ起業・事業化推進の取り組みというのは初めてのことだと思います。

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──ジャフコがRIMIXに関わることになったきっかけも教えてください。

佐藤:立命館大学さんとの関係は、ジャフコのファンドにご出資いただいたことから、接点が始まりました。

アメリカにおいては大学がファンドの出資者として大きな比重を占めています。大学側から見れば、主にリターンを得る目的ではありますが、VC側から見ると、大学には研究開発をもとにした大学発ベンチャー・スタートアップを生み出す土壌があることに加え、若者への起業意識の醸成という側面において、大学との連携は元来相性が良いといえます。

2000年代から国立大学を中心にファンドが組成され、大学によるスタートアップ支援が活性化していきましたが、他の大学が研究シーズの事業化を取り組みの中心に掲げる中、立命館大学さんが学生側にアプローチし、スタートアップを生み出す仕組みを作っていこうとしているところにユニークさを感じました。

私自身、2010年に現役大学生が立ち上げた会社に投資をしたことがあります。その会社自体は清算することになったのですが、その起業家は再び起業し、見事IPO(上場)を果たされました。そういった起業家を間近で見たこともあり、学生起業家に大きな可能性を感じ、RIMIXに全面的に協力させていただくことに決めました。

VCから直接アドバイスをいただける機会は他にない

──RIMIXを立ち上げていく中で難しさを感じる部分はあったのでしょうか?

酒井:立ち上げ時は「何から取り組んでいいのかが見えてこない」こともあり、とにかく出てきた課題を1つひとつ潰していった感じですね。特に難しかったのが、内部組織の巻き込みです。教育機関は高校・大学など、学年が異なると縦割り構造になってしまいがちなので、一気に巻き込んでいくのは難しい。ですから、ここに関しては、地道に「自分たちはこういったことをしたい」というのを各学校をまわって説明し、私たちの取り組みに共感する先生を見つけていきました。

その一方で、立ち上げ前に卒業生や金融機関の方々から「立命館大学の卒業生は社会課題の解決を目的に起業している方が多い印象がある」と言っていただいたものの、当初は本当にいるかどうか不安な面もあったんです。ただ、2020年1月に初めて総長へピッチを行うコンテスト「総長PITCH CHALLENGE」を実施したところ、募集期間は1カ月くらいだったのですが、合計15組から応募がありました。また大学全体から応募があり、私たちが取り組もうとしていることに対するニーズはあるんだなと感じました。

──そういう意味では、立ち上げからの4年間で手応えも感じてきている。

酒井:対外的に見ても、立命館という学園全体がスタートアップ支援に熱心に取り組んでいるという印象を持っていただけていると思います。実際にそういう機会が増えてきたと感じる部分はありますし、学生のマインド変化も含めて、RIMIXという取り組みに対する理解が少しずつ深まってきているのかなと感じています。

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佐藤:私は2021年まで行われていた「総長PITCH CHALLENGE」の審査員として関わらせていただいていましたが、年々学生さんのプレゼンのレベルが上がっているなと感じます。これは、具体的な目標の機会を設けることにより、チャレンジする学生の裾野が増えたこと、起業するかどうかは別として、社会課題を解決するために「自分が本当にやりたいこと」が明確化されること、同じ目的を共有する仲間が出来るということは、今後のキャリア形成において、大きな財産になったと思います。

──ジャフコとの連携に関して、審査員以外にどのようなものがあるのでしょうか?

酒井:もともと、RIMIXは多くの方々を巻き込みながら進めていきたい考えがあったこともあり、お付き合いのあった佐藤さんにもお願いをして、学生が考えたアイデアに対して意見をいただいたりしました。VCという立場から、アドバイスをいただける機会は学園内にはないので、その点でも非常に有益だったのではないかと思います。

佐藤:審査もそうですが、学生さんたちに対してジャフコのキャピタリスト等が、ビジネスプランづくりの講習を開催したり、ビジネスの成功・失敗事例を共有したりしたほか、実際に活躍している起業家(ジャフコの投資先)との交流なども行いました。

アントレプレナーシップマインドの醸成がエコシステムの発展につながる

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──RIMIXは「小中高大」という一貫教育の枠組みの中で展開されているのが特徴かと思います。この取り組みが社会に与える影響についてどうお考えでしょうか?

酒井:世の中の社会課題が複雑化していく中で、大学生になってから「起業」という選択肢を考えるのは遅いと思っており、それに対するひとつの答えが一貫教育だと思っています。

立命館は2つの大学、4つの附属中高、1つの小学校を保有する総合学園です。附属中高に通う学生の多くは内部進学というかたちで、立命館大学、立命館アジア太平洋大学(APU)に進みます。そういった若い世代が、中高時代に感じた課題意識を途切れることなく、大学にも繋いでいくことは成長のためにも重要だと思います。課題意識を持ち続け、それに対する取り組みをシームレスに繋げていくという意味でも、一貫教育は効果的だと思います。

──またRIMIXによって、日本のスタートアップ・エコシステムの発展にどのような影響があるのか。おふたりの考えがあれば、ぜひお伺いしたいです。

酒井:昨今、政府が「スタートアップ育成5か年計画」を発表するなど、研究開発者の研究シーズを実用化に結びつけるための支援は活性化してきている印象です。

私たちもRIMIXという取り組みを通じて、自分自身の研究成果を社会のために役立てたいという思いを持っている研究者が少しずつ増えてきていると感じます。その思いを形にするための支援を継続して行っていくことがスタートアップ・エコシステムの発展には欠かせません。もうひとつは、人材育成も今後はより重要になっていくでしょう。

例えば、RIMIXによって卒業後の進路として、企業への就職だけでなく「起業」という選択をする人も少しずつ増えてきています。こういった取り組みを通じて、アントレプレナーシップマインドを持った学生を育成していくことが、中長期的には日本のスタートアップエコシステムの発展に繋がっていくはずです。

佐藤:起業する人の裾野を広げるために重要なのは、新たに挑戦するマインドを醸成していくことです。この挑戦するマインドの醸成は教育からのアプローチが最も効果的かと思います。ジャフコとしても、引き続き立命館大学さんと一緒に挑戦の循環をつくっていくことに関わっていきたいと思います。

起業家教育のゴールは「起業」ではない

──「日本の起業家教育はこうあるべき」という考えがあればお伺いさせてください。

酒井:RIMIXを始めた当初から変わっていない部分ではあるのですが、起業家教育のゴールは起業ではないと思っています。起業が目的ではなく、RIMIXではさまざまな取り組みを通じて、アントレプレナーシップマインドを持ってもらうことの方が重要です。

私たち教育機関は学生たちを送り出す組織です。就職や進学、起業も含めて、さまざまな選択肢がある中で、学生たちが学校を卒業し、結果的にどんな形であれ幸せな人生を送ってもらいたいです。そういったきっかけを与えられるのが起業家教育だと思います。

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佐藤:酒井さんがおっしゃったように、すべての学生が起業する必要はありません。ただ私どもがお付き合いしている起業家は、皆いちように、居ても立ってもいられないような「社会課題を解決したい」という熱量やパッションが行動の源泉になっています。その熱量が周りに伝播し、大きなうねりとなって社会を変革するような新しいテクノロジーやサービスが生まれてくる。学生さんたちに、そういった熱中できるものを見つけるヒントや気づきを与え、社会課題の解決や新しい事業を生み出すことを後押しをするのが、起業家教育だと思います。

──最後に今後の展望があれば教えてください。

酒井:RIMIXは"Ritsumeikan Impact-Makers Inter X(Cross)Platform"の頭文字をとった造語です。社会にインパクトを与える人を立命館内外の交流を通じて生み出すプラットフォームをつくりたいという思いで立ち上げたこともあり、改めて原点に立ち返ることも重要かなと思ってます。世の中はどんどん複雑化し、不確実な時代とも言われてる中で、社会課題を解決をしていくためには、学生や教職員だけでなく、大企業やVC、行政、卒業生なども含めて多くの人を巻き込みながら取り組みを進めていくことが大事。そうすることにより、大きな価値を生み出すことができるんじゃないかと思っています。

佐藤:挑戦する人の裾野を広げるために必要なことは、ひとつでも多くの成功を生み出すことです。ジャフコでは成功や失敗の事例をナレッジ化し、それを共有することで投資先の成功確度と成長角度を高めるための様々なバリューアップ施策を提供しています。また、ジャフコでは起業準備プログラム「First Leap」があり、学生の方々含め、起業を志す方々に客員起業家(EIR)としてジャフコに参画いただき、ビジネスアイデアを実際の事業に具体化するサポートを提供しています。

今後、RIMIXがより一層盛り上がり、数多くの学生や起業家予備軍がリスクを恐れず、新たな挑戦に踏み出すことを期待していますし、スタートアップの起業家のみならず、大企業や大学に在籍している優秀な方々の挑戦を後押ししていきたいと考えています。

卒業生の声

実際にRIMIXに参加し、大学在学中に起業した人も生まれてきています。今回、バングラデシュのエンジニアチームとともに、
社会課題の解決に特化したアプリ・システム開発を手がける株式会社STEAH田畑春樹さんにRIMIX参加の感想についても聞きました。

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──RIMIXに参加したきっかけを教えてください。

田畑:最初に参加したのは大学2年生の頃です。当時、国際協力系のサークルに入っており、そこで友人たちと「ソーシャルビジネスを企画しよう」という話になったのがきっかけです。一番身近にあるチャレンジの場所がRIMIXの「総長PITCH CHALLENGE」だったので、友人たちと一緒に応募することにしました。

──実際に参加してみて、いかがでしたか?

田畑:ビジネスコンテストなので、普段の学生活動よりもプロフェッショナルな視点が求められるなと感じました。実際に参加することでロジカルシンキングやビジネスに落とし込むための考え方ができるようになったと思います。モノの見方がすごく変わりましたね。

最初はサークルの友人と一緒に「ソーシャルビジネスを考えてみよう」というノリで参加したのですが、そこでの経験をきっかけにビジネスや起業に関心を持つようになり、その2年後にもう一度、本格的に起業する前段階として参加した。その後、起業したわけですが、RIMIXがなければ「起業しよう」という考えにはなっていなかったと思います。

──通常のビジネスコンテストとの違いをどう感じましたか?

田畑:起業する1年前くらいにさまざまなビジネスコンテストに参加してみたのですが、そこで改めてRIMIXはメンターや運営との距離感が近いなと感じました。気軽に相談でき、メンターの知り合いを紹介してもらえる。同じ目線で対等にコミュニケーションがとれるメンターがいるんです。すごく助けられましたし、そのおかげで起業することができたと思います。自分が1年生のときは「スタートアップ」や「起業」といった言葉は聞くことはありませんでしたが、卒業時には頻繁に聞くようになりました。RIMIXのおかげで起業する裾野は広がっているように感じます。

撮影:小田 駿一
デザイン:いつみ あすか
企画:徳井 麻衣(JAFCO)/ 小宮 明子(PRAS)