JAFCOの投資とは

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トップティアVCと連携し、約40年にわたりアメリカで投資を実行。北米を拠点とするIcon Venturesの挑戦とその心構え。
トップティアVCと連携し、約40年にわたりアメリカで投資を実行。北米を拠点とするIcon Venturesの挑戦とその心構え。

日本国内への投資だけでなく、成長著しいアジアや最先端のテクノロジーをリードする北米など、世界3拠点で投資を行うジャフコグループ。

特に北米地域は、世界最大の未上場投資市場であることから、ジャフコは1984年にJAFCO America Ventures社を設立し早い段階から現地のトップティアVCとのネットワークを構築し投資を実行。その後、Icon Venturesに名称変更してからは、8社のIPOを含む34件のEXITに成功し、EXIT VALUE総額は約1000億米ドルを超えています。

今回は、そんなグローバル投資の一翼を担う「Icon Ventures」にて、投資先企業の日本での営業開拓サポートをはじめ、人材採用支援などの取り組みを行う「ビジネスディベロップメント部 北米担当」について、その具体的な機能やスタンスを小野 直之氏、川原 哲夫氏がお話しします。


【プロフィール】
ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 北米担当/プリンシパル 小野 直之(おの・なおゆき)
ジャフコで15年以上、北米投資先のビジネスディベロップメントを担当し、40社以上の北米ベンチャー企業の日本進出、日本市場での売上拡大を推進。ジャフコ入社以前は、外資系大手ITベンダー、サイバーセキュリティベンダーにてエンジニア、プロダクトマネージメント、プロダクトマーケティング、セールス、マネージメントを経験。


ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 北米担当/プリンシパル 川原 哲夫(かわはら・てつお)
2018年にジャフコ入社以来、一貫して北米ポートフォリオ企業のジャパンエントリーを中心とした投資先支援を担当。当社入社以前は大手外資系ITベンダーでセールスや事業開発担当として活躍。



現地に溶け込み、象徴的な投資実績を打ち立てたいと名称を変更


─ジャフコは1984年にJAFCO America Venturesを設立して以来、約40年にわたって北米地域で投資活動を進められています。現在はIcon Venturesに体制が変更されていますが、具体的な取り組み内容を教えてください。

小野 現在のIcon Venturesは、投資の意思決定を行う投資チーム、続いてその投資先の価値向上のために様々な支援を行うビジネスディベロップメントチーム、そして投資ファンドの運営やその他投資に関連する業務を担うオペレーショナルサポートチームの3つで構成されています。

私と川原さんはビジネスディベロップメントに所属し、主に投資先企業が日本市場に進出したり、活動を広げたりする際のサポートを担当しています。

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─JAFCO America Venturesから現在のIcon Venturesに名称や体制が変更になるまでには、どのような背景や経緯があったのでしょうか?

小野 様々な経緯はあるものの、名称が変わった背景には「より成長が著しいアメリカ市場において、象徴となる投資事例をつくりたい」という思いがありました。

もともと1984年にJAFCO America Ventures社が設立された当初は「日本市場への進出機会の創出」という強みを武器に投資を行っていました。しかし、この20、30年で日本市場の位置づけはアメリカ市場と比べ大きく変化しています。特に、アメリカ市場は「世界最大のスタートアップ市場」と言われているように、上場を目指すスタートアップがひしめきあう状況が生まれていますよね。

そうした背景から、これまでよりもアメリカ市場と密接に関わりを持ち、現地に根を張って投資するVCでありたいと思い、「象徴」や「シンボル」を意味する「Icon」という単語を組み込んだ「Icon Ventures」に名称を変え、現在に至るまで活動を続けています。



トップティアVCと「投資のエコシステム」を構築し、未来を担うユニコーン企業へ投資


─それでは、Icon Venturesのこれまでの投資実績について教えてください。

川原 主な実績としては、中小企業向けの決済処理ソフトウェアを展開する「bill.com」が挙げられます。

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もともと、アメリカには小切手文化があり、今もメジャーな決済手段として個人、法人問わず使われているんですね。ただ、小切手はいちいち紙に金額を書いて、それを後日銀行で振り出して......のように、手続きそのものが非常に煩雑なんです。bill.com社は、そうした手続きをデジタルに置き換えたことで中小企業から大企業まで、様々な規模の企業様に導入されています。

まさに業界のデファクト・スタンダードになったことで、2019年にIPOも達成。その後も成長を続け2023年8月1日現在時点の時価総額は約130億米ドルほどになり、非常に大きな成長を遂げた企業の1つです。

また、IPO前の企業ですが、女性とその家族の健康を守るデジタルクリニックを展開する「Maven Clinic」もIcon Venturesを代表する実績の1つです。

アメリカは『Family and Medical Leave Act(FMLA)』と呼ばれる育児介護休業法がありますが、まだまだ育休・産休の制度や保障が整っているとは言えず、職場復帰のハードルが非常に高いんですね。Maven Clinic社は、そうした悩みを抱える女性の皆様に対し不妊治療や職場復帰のサポートなどをオンライン上で提供しています。やはり近年は、様々な場所で活躍する女性が増えていますから、そうした方へのサポートは、非常に重要なテーマと考え、投資しています。

小野 Maven Clinic社に代表されるような「デジタルヘルス」にくわえて「セキュリティ」「データ&AI」「フィンテック」「コンシューマー向けSaaS」の4つの注力領域を設けて投資しています。特にセキュリティの分野では、Palo Alto Networks社やTrellix(旧FireEye。現在は非上場)社、そしてProofpoint社(現在は非上場)の3社がナスダックへ上場しており、上場時の時価総額を合わせると80億米ドル(1兆400億円)ほどに成長していますね。


─これまで、Icon Venturesが現地で投資実績を挙げ続けられている理由は何でしょうか?

小野 基本的なことではありますが「投資した企業のビジネスがきちんとビジネスとして成り立つのかどうか」「起業家自身がビジネスを成功させる能力があるのか」を総合的に判断し、意思決定を行っています。

先ほど4つの注力領域をご説明しましたが、必ずしもそれに縛られるわけではなく、広く市場を見渡しながら投資をする・しないという判断を行っています。やはり新しいビジネスが生まれるときは、分野の枠を超えて新しい市場が生まれることが往々にしてありますし、そもそもどんな分野が伸びるかなど明確に答えを出すことはできません。特に、アメリカのベンチャー企業の多くがシリーズAからBに移行する際にピボットをしていますから、当初の想定通りに進むこと自体少ないんですね。

だからこそIcon Venturesでは、注力領域に縛られずに「そのビジネスが本当に成功するのか?」を突き詰めながら投資判断をしています。

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また、必ずしもIcon Ventures単独で投資判断をしているわけではありません。「協調投資」や「シンジケート投資」と呼ばれるように、Icon VenturesはアメリカのトップティアVCと連携しながら投資しています。

例えば、先ほど紹介したMaven Clinic社への投資も、もともとは別の投資先のTeladoc社で経営陣に参画していたIcon VenturesのTom Mawhinneyと現地のVCとのネットワークのなかで投資のきっかけが生まれています。その他の投資案件も、他のVCと共同で進めていることがほとんどです。

このように、JAFCO America Ventures時代を含め現地で着実に投資を積み重ねてきたことで、トップティアのVCを含めた「投資のエコシステム」が形成され、リターンのある投資ができています。その意味でIcon Venturesは、日系の独立系VCとしてアメリカ市場でもアイコニック(象徴的)な投資実績を生み出せているのではないかと考えています。



日本のネットワークを駆使し、日本進出初年度で約4億円の売上を創出。営業から採用、現地法人立ち上げまで幅広く取り組む


─続いて、小野さん、川原さんが所属するビジネスディベロップメントの取り組みについても教えてください。

小野 私たちが所属するビジネスディベロップメントチームは、主に投資した企業が日本の市場に進出したり、日本での活動を広めたりする際の支援活動を行っています。

具体的な事例としては、2004年にアメリカはカリフォルニア州で創業したサイバーセキュリティ分野の「FireEye」での取り組みがあります。私たちが支援した当時、FireEye社は防御が難しいとされるサイバー攻撃やマルウェアの検知に効果を発揮する高度なセキュリティ・ソリューションを持っていたのですが、販売の仕組みがうまく構築できず、日本進出後の数年はなかなか売上がつくれていない状況にありました。

今でこそ、国内外の様々な企業に導入されているように、製品そのものの価値は高いですから、販売経路のどこかに改善できる要素があるに違いない。そこで私たちは、現状の課題を分析し、日本市場に合わせた営業戦略を提案。それに基づいて日本の販売代理店の方々と連携して定期的な営業情報の共有や販売のための営業トレーニングなどを実施し、初年度売上300万米ドル(約4億円 ※1ドル=130円で換算)の売上を創出できました。

また、機械学習を活用したセキュリティプラットフォームを展開する「Exabeam」においても取り組みがあります。Exabeam社の場合は、FireEye社のときとは異なり、日本進出時の法人設立から販売代理店の立ち上げ、その後の営業戦略の立案から日本メンバーの採用活動まで、様々な分野で支援を行っています。

川原 他にも直近の取り組みだと、2023年8月8日に発表されたAlation社への支援があります。Alation社は企業向けデータインテリジェンスプラットフォームを提供する企業で、日本進出に向けて資金調達や販売代理店を模索していたものの、難航していました。そこで私たちは、検討候補に上がっているVCと頻繁にコミュニケーションをとり、投資決定に必要な条件の洗い出しや、関係各所との調整を実施。無事に投資のご判断をいただけました。

また、それだけでなく、日本進出時はどの企業様に販売代理店を務めていただくかも重要なため、私たちは候補となる企業様へAlation製品を提案。役員やキーパーソンを交えたエグゼクティブミーティングの実施や技術ディスカッション、その他顧客候補への共同営業活動などを主導し、今ではその代理店企業様もかなり力を入れてAlation製品を販売いただいています。


─決められたことを進めていくのではなく、その都度必要な支援をされているのですね。

川原 投資先の規模やビジネスモデルに応じて、必要な支援は異なります。投資先が日本市場に進出を希望している場合でも、それを実行できる体制がなければうまくはいきません。その場合は、いきなり人を雇うのはハードルが高いので、我々が直接的にその企業のメンバーになりかわって支援を行います。

具体的には、3つの「柱」に例えると分かりやすくなるかもしれません。まず1つめは販売チャネルの策定と実際の代理店獲得、2つめは、エンドユーザー企業への営業による顧客の獲得、そして3つめは製品そのものの日本語対応やパッケージの準備。もちろん、投資先の戦略や特性などにもよるのでこれだけではありませんが、私たちビジネスディベロップメントチームは、3つの柱を中心に投資先にとって必要と考えられる支援を行っています。

くわえて、そうした活動をする際に意識しているのが、これら3つの柱に必要なネットワークを「どのように構築するか?」という点です。

販売パートナーを探す際も自分なりの人脈や関係値を常日頃から構築する必要がありますし、現地法人のカントリーマネージャーを採用する場合にも同様のことが求められます。だからこそ、業界の集まりやコミュニティに参加したり、プロジェクトで関わった方々と定期的に情報交換したりといったことを行い、投資先からの要望にすぐに動ける準備を心がけています。

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小野 本当に生きて役に立つネットワークは「自己だけでなく利他も考え、真剣に取り組むこと」で生まれてくると考えています。単に関係性があるからとか、数回やりとりをしたとで生まれるものではなく、その人・企業と真剣に向き合って仕事をしたり、ときにはぶつかったりすることで初めて「この人になら、この案件を相談できるのでは」とお互いに思えるネットワークになるのだと思います。

投資先のために何ができるか、投資先が困らないために我々が先回りしてできることは何かないだろうか。日本とアメリカでは文化も違えば習慣も違うからこそ、「利他」を考えることで結果的に生きて役に立つネットワークが生まれているのだと思います。

川原 日本とアメリカも同じで、やはりスタートアップって苦労することが多いんですね。日本進出にしても、彼らにとって見ればアメリカと違う全く新しい市場。だからこそ一緒に苦労をともにした方とのネットワークは、まさに我々の「財産」だと思います。



日本とアメリカをつなぎ、次代を担うスタートアップの成功に向けて支援を続ける


─最後に、Icon Venturesとしての今後の目標や課題をお聞かせください。

小野 Icon Venturesの特徴は、ジャフコの持つネットワークやリソースを活用し、投資先の価値向上として日本市場への開拓も行えることです。アメリカ全土を見渡してみても我々のような他国間の市場を結びつけ投資先価値向上ができるVCってほとんどいないんですね。

だからこそ、これまでと同様に成功するスタートアップを早く見つけて投資し、ビジネスディベロップメントによって成長してもらうという取り組みをこれからもし続けたいと思います。

川原 我々の特徴を生かしつつ、基本的には「日本を元気にしたい」と思っています。投資先が成功することはもちろんですが、関係する事業会社やパートナー企業も含めた全体で日本を変えていくような取り組みを進めていきたいと思います。