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エジソンの時代から変わらない「材料開発」を変革し、全ての試行錯誤をデジタルな資産に
エジソンの時代から変わらない「材料開発」を変革し、全ての試行錯誤をデジタルな資産に

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第41回は、MI-6株式会社 代表取締役の木嵜基博氏に登場いただき、担当キャピタリスト宮林隆吉からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
MI-6株式会社 代表取締役 木嵜 基博(きざき・もとひろ)
京都大学法学部卒業後、ITベンチャー企業に入社し営業・事業開発としてマザーズ上場に貢献。オリックス株式会社にてオープンイノベーション、モバイク(中国初シェアサイクル)の日本責任者を経て2017年にMI-6株式会社を創業。
「日本から世界で勝負できる事業をつくる」ことを人生ミッションに事業テーマ探しをする中で、前職で偶然「素材産業の面白さ」と「経験と勘による非効率さ」に出会い、幅広い社会課題を解決するためMI-6を創業。

What's MI-6株式会社】
素材・化学メーカーを中心に、データサイエンスによって材料開発を加速する技術(マテリアルズ・インフォマティクス:以下MI)を活用したSaaSmiHub」、ハンズオン型の解析支援サービス「Hands-on MI」並びに自動化技術をMIと組み合わせた実験自動自律化サービス「MI Robotics」の開発と提供を行っている。取引社数は累計100社を突破。累計資金調達額は約15億円(20237月時点)

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素材開発のDXで社会を前進させる

MI-6の事業領域である素材産業の現状について教えてください。

木嵜 私たちの生活には、電子機器、家電、家具等の工業製品が必要不可欠。それらの製品を形成しているのが、プラスチックや繊維、ガラス、電子機器用の化学品といった「材料」です。材料の研究開発の前進なくして、「人々の生活を便利にする」ことと「サスティナブルな社会を目指す」ことの両立は成し得ません。その実現のために研究者の皆さんは日々試行錯誤しているわけですが、材料の研究開発というのはトレードオフだらけ。顧客のニーズ、法規制、環境規制、コスト、品質の安定性、原材料が仕入れられるかどうか...そういった様々な条件をクリアするために多くの失敗を重ね、平均20年もの月日をかけて開発しているのが現状です。このスタイルは基本的にエジソンの時代から変わっていません。

素材産業は日本の強み。高い技術力で国際競争力を維持し続け、戦後の自動車や電機産業の成長を支えてきました。市場規模は約20兆円にのぼります。しかし近年は、材料開発の高度化・複雑化、開発の短期サイクル化、国内外の開発競争激化により、変革が求められている産業でもあります。当社は材料開発のアプローチを効率化して加速させることで、より便利でサスティナブルな社会の実現に寄与したいと考えています。

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ーどのように材料開発の効率化を図るのか、具体的な事業内容を教えてください。

木嵜 機械学習や計算化学等の技術で材料開発を効率化するMI(マテリアルズ・インフォマティクス)という手法を用いて、お客様の材料開発を支援する事業を展開しています。

1つ目は、当社のデータサイエンティストによるハンズオン支援。MIはここ10年で普及してきた新しい手法で、まだ活用できていない現場も多いため、ハンズオンでの解析の支援や社内へのナレッジ蓄積の支援を行っています。2つ目は、SaaS型のMIソフトウェア『miHub』。プログラミングや統計の知識をお持ちでない研究者の方でも、ノーコードで最先端のMIを活用できるソフトウェアです。
そして3つ目が、MIとロボットを組み合わせて実際の実験プロセスを支援するロボティクスサービス。材料開発は11回の実験に非常に時間がかかるのでビッグデータになりにくく、データを増やすには実験の効率化が必要です。そこで実験の各工程をオートメーション化して繋いで高速化し、指示出しからデータ蓄積までフルリモートで行えるように支援しています。特定の材料に関してはすでに対応できており、今後はより広範囲の材料プロセスに対応できるようにサービスを拡張していきます。

コア技術開発とハンズオン支援を行う「データサイエンスチーム」、コア技術をプロダクト化する「プロダクトチーム」、材料開発とデータサイエンスの知見を活かして提案・伴走支援する「セールスチーム」と「カスタマーサクセスチーム」。当社には、バリューチェーンの全工程を提供できる体制があり、その点が大きな強みだと考えています。

ー現在までにどのような取引実績がありますか。

木嵜 化学、石油、金属、ガラス等、日本を代表する様々なメーカー様100社以上(20236月時点)とお取引させていただいています。ある企業様は、社内でのMI推進に伴い当社のハンズオンサービスと『miHub』を導入され、従来の半分ほどの工数で目標を達成する新規材料の発見に到達されました。そのデータを活用した次の案件では、さらに短い4分の1ほどの工数で開発できる見込みだとお聞きしています。このように、MIを活用し続けることでどんどんデータが蓄積され、開発が効率化されていくという事例が増えてきています。

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ー木嵜さんが起業されるまでに歩んできたキャリアについて教えてください。

木嵜 弁護士を目指して法学部に進学したのですが、法律の勉強が自分に合わなくて、別の道に進むことを決めたのが大学3年のとき。1年休学して様々なスタートアップでインターンに参加し、経営者の方々とお話しさせていただく中で、「社会を前進させてきたのはやっぱりアントレプレナーなんだな」「自分も社会を前進させる事業を起こしたい」という想いが強くなっていきました。

大学卒業後はクラウドソーシングやヘルスケア等、自分の中で意義を見出せる事業を選んで携わってきましたが、「材料開発」に着目するようになったのはバイクシェアサービスのスタートアップにいた頃。大手化学メーカーと提携して自転車用の材料を開発していたのですが、スピード命のスタートアップと、1020年かけて研究開発するメーカーとでは、時間軸が大きく違うためになかなかうまく進みませんでした。そこで初めて素材産業の現状や課題を知り、興味を持ったのです。そんな中、MIを専門とする東京大学の津田宏治教授(現:MI-6技術顧問)と知り合い、MI-6の創業に至りました。

ー意義を見出せる事業を探していたとのことですが、「材料開発」「MI」という領域に出会った当初から「これだ!」という直感はあったのでしょうか。

木嵜 いえ、やりながら確信を得ていったというのが正直なところですね。MI自体が黎明期であり、正解のない中でプロダクトやソリューションをつくっていく必要があったので、意思決定が非常に難しかったです。ユーザーとなるお客様と徹底的に対話し、CTOと一緒に技術ビジョンを議論しながら、進むべき方向性を定めていきました。実際にプロジェクトを納品してお客様から「良い材料ができた」という声をいただいたり、当社のビジョンに共感してジョインしてくれるメンバーが増えたり...そうした経験を積み重ねるうちに迷いが晴れて、確信に変わっていきました。


ジャフコグループ全体での徹底的な支援体制に魅力を感じた

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木嵜氏とジャフコ担当キャピタリストの宮林隆吉(左)

20235月にジャフコのリード投資で、シリーズAラウンド・6.5億円の資金調達を実施されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

木嵜 『miHub』が順調にグロースしていたのでアクセルを踏むためのセールス体制強化と、プロダクトの提供価値をさらに広げるための開発体制強化の2つを目的に2022年秋から資金調達を検討し始め、20231月に既存投資家の紹介でジャフコの坂さん(パートナー坂祐太郎)と宮林さんと初めて面談させていただきました。

歴史あるVCだけに少しお堅いイメージを持っていたのですが、お二人ともとてもフランクで、そのイメージはすぐに覆されました。
当社や業界のことを予め研究していただいた上で、それでもわからないことは率直にわからないと言い、本質を理解しようとしてくださる姿勢が嬉しかったですね。

宮林 木嵜さんは、これだけ専門性の高い領域で事業を手がけているにもかかわらず、専門外の私たちと同じ目線で会話できる方。専門性とビジネスに対する言語のバランスがすごく良い、なかなかいないタイプの経営者だと感じました。お話を聞いたり事業について調べたりすればするほど、新たにわからないことが出てきて、13回ミーティングしたこともありましたよね(笑)。

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ーキャピタリストとしては、MI-6のどんな点に可能性を感じましたか。

宮林 私はもともと、日本のマーケットで生まれたことがグローバルで強みになるようなビジネスに興味があり、大学発ディープテックやクライメートテック、エンターテイメント等の領域をよく見ていました。素材産業はCO2の排出量が多く、気候問題においてよく議論される産業。MI-6はそのDXを目指すスタートアップということで、早い段階から魅力を感じていました。そして「マーケット」「事業」「経営陣」の3つの観点から可能性を見た時に、今回は最初から3つの基盤が揃っていると感じました。だから通常のプロセスとは少し違う形で、「なぜ今のMI-6であることが可能なのか」を解き明かしていったような感じでした。

一番不思議に感じたのは、このステージの企業にしては組織に多様性があること。データサイエンス、ソフトウェア、マテリアル、ロボティクス、事業開発...と総合的に人が集まっていて、外国籍の方もいるし育児しながら働いている女性もいる。多くの人を惹きつけて「挑戦したい」と思わせるだけのビジョンを木嵜さん自身がお持ちなのだろうと思い、何度もミーティングさせていただいて掘り下げていきました。

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ー木嵜さんが最終的にジャフコをリード投資家に選んだ決め手は何でしたか。

木嵜 VCとは長いお付き合いになるので、背中を預け合えるくらいの関係性を構築できそうかどうかを重視して資金調達先を探していました。それって究極は「人」と「人」の部分になってくると思うのですが、坂さん・宮林さんの姿勢からは、投資家としてだけでなく人間としての信頼性が感じられました。

自社の利という視点ですと、ジャフコさんの資金力の大きさはもちろん魅力でしたが、それ以上に「グループ全体で徹底的に支援する」というスタンスが非常に心強かったです。経営者の友人たちに話を聞いても、ジャフコさんの評判は驚くほど良くて。「口だけじゃなく、本当にリソースをフルに使って支援してくれる」と皆が言っていたんです。調達が完了してご支援がスタートしている今、あの評判は本当だったんだと実感しています。


すべての試行錯誤をデジタルな資産として未来に残す

ー木嵜さんが事業を通じて実現したい未来についてお聞かせください。

木嵜 材料を研究開発して量産してマーケットに出す。その一連の「材料開発」のプロセスで生じる試行錯誤を、すべてデジタル化して繋いでいきたいと考えています。先人たちが試行錯誤して掴み取ってきた成功の裏にはその100倍もの失敗がありますが、それらはほとんどナレッジとして残っていません。99%の失敗と1%の成功をすべてデジタル化・ナレッジ化して、未来の世代がいつでも使いこなせるようにすること。それが、便利かつサスティナブルな社会を実現するための素材産業の前進に繋がっていくと考えています。

ー材料開発の変革は、サスティナブルな社会の実現にどう寄与できるとお考えですか。

木嵜 例えば、砂漠化の進行を防ぐために、オムツ等に使われる吸水性ポリマーが役立つと言われています。土壌に水を保持できるポリマーを開発できれば、新たに緑化をせずとも植物が育つ環境を創ることができる。近年開発が進む生分解性プラスチックに関しても、まだまだ課題が山積していますが、材料開発の効率化により解決できる可能性は広がります。

また、材料をリサイクル・アップサイクルする際には「廃棄物が出ない」「有害物質が出ない」といったことが重要ですが、研究開発でわかっている知見や情報がリサイクル・アップサイクルの現場では使いこなせていないという実情があります。私たちがサプライチェーンを接続するブリッジ役を担うことで、リサイクル効率の向上、ひいては地球環境の保全に貢献できるとも考えています。

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ー最後に、木嵜さんが起業家として大切にしていることをお聞かせください。

木嵜 先ほど宮林さんも組織の多様性について触れてくれましたが、マネジメントをする上では、多様性に対するリスペクトや一人ひとりをどう活かすかを常に大切にしています。社員に任せられることは任せて、私自身はビジョンを研ぎ澄ますことや、ビジョンと戦略と組織をしっかり繋いでいくことに注力する。私は研究者でも専門家でもないし、何者でもありません。社員やお客様から受ける様々な影響を通して、自分の人格が拡大していっているような感覚で日々経営と向き合っています。


担当者:宮林隆吉 からのコメント

ceaba565a359c131fd87d7dc8712e21c5668f7ff.jpg素材産業のDXは、研究開発の効率化によるCO2削減、環境保全に寄与する新規材料の開発、リサイクル効率向上等、様々な観点から急務となっている課題です。中でも日本の素材産業には世界トップクラスの企業が揃い、市場規模は国内自動車産業を超える付加価値額約20兆円。早急なイノベーションが求められています。MI-6はその難題にアタックできる稀有なプレイヤー。複雑な課題を解決するには組織のダイバーシティも欠かせませんが、データサイエンス・マテリアル・事業開発をはじめ多様な人材が集まる組織を、代表の木嵜さんは強力なビジョンとマネジメント力で牽引しています。日本発の新たなソリューションを世界に広げ、業界のみならず社会全体を変革する。その非常に意義のある挑戦を、同社ならやり遂げられると信じています。