JAFCOの投資とは

  1. TOP
  2. & JAFCO POST
  3. 合成生物学ソリューションのグローバル展開 大規模なゲノムエンジニアリング技術で 医療、ものづくりの常識を変える
合成生物学ソリューションのグローバル展開 大規模なゲノムエンジニアリング技術で 医療、ものづくりの常識を変える
合成生物学ソリューションのグローバル展開 大規模なゲノムエンジニアリング技術で 医療、ものづくりの常識を変える

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第37回は、株式会社Logomix代表取締役CEOの石倉大樹氏に登場いただき、担当キャピタリスト森中紹文からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社Logomix 代表取締役CEO 石倉 大樹(いしくら・たいき)
九州大学農学部在学時に大学発創薬ベンチャーの創業に参画。エムスリーで医療分野の新規サービス開発に従事。米スタンフォード大学経営大学院に留学後、P5(ピー・ファイブ)、日本医療機器開発機構(JOMDD)を経て、2019年から現職。

【What's 株式会社Logomix】
創薬・バイオものづくりの課題解決に繋がる高機能細胞を開発するゲノムエンジニアリングカンパニー。ゲノム大規模構築技術Geno-Writing™を提供し、バクテリア、酵母、動物培養細胞、ヒト幹細胞等様々な生物種の細胞や細胞システムを機能改変する。

Portfolio



バイオ技術の社会実装に将来性を感じた

―Logomixの事業内容を教えてください。

石倉 Logomixは、東京工業大学の相澤康則先生と創業したバイオベンチャーです。相澤先生が、国際プロジェクト「GP-write」や酵母の全ゲノムを人工合成することを目指した「Sc2.0」等への参画を通じて、世界の合成生物学研究ネットワークの中で蓄積してきた技術やノウハウをベースとしています。

ゲノムは、生物の設計図である遺伝情報全体のことを表します。そのゲノムを大規模に設計・改変できるゲノム大規模構築技術を有しているのが、Logomixの最大の特徴です。

現在は、製薬企業や化学・素材系企業、エネルギー系企業等、細胞や微生物を使ったものづくりを進めているパートナー企業10社と協業を進めています。

Logomixという社名は、「logogram (= 表意文字)+ mix」からきており、ゲノム配列にコードされている「機能」を組み合わせて、新しい価値を生み出していく会社、という思想が由来です。

Geno-Writing™ to design, construct and examine new cellular entity

図1_修正.jpg

―自然界にもともと存在する微生物を"発見"するのではなく、改変するところに、Logomixの先進性があるのでしょうか。

石倉 私たちが手掛ける合成生物学という領域では、多くの遺伝子を生物に組み込むことで、本来その生物が持ち得なかったタンパク質を作ったり、それによって新しい代謝のシステムを獲得させる試みが進んでいます。

新たに"つくる"とまでは言えませんが、これまでのゲノム編集技術を「建物のリフォーム」に例えるなら、Logomixの技術が実現するのは、「街ごと作り変える」レベルと言えるかもしれません。


―ゲノムを大規模に改変できることで、具体的に社会はどう変わり、何ができるようになるのでしょうか。

石倉 影響の大きな事業領域は大きく2つあります。

まずは、医療・医薬・創薬領域で、細胞を使った医薬品開発への貢献を目指します。一例ですが、近年、新たながん治療法として注目されている「細胞治療」のベースとなる細胞の開発を推進しています。弊社のゲノム構築技術を活用し、安全・安価で汎用性の高い治療用細胞の開発を進め、より多くの患者さんが細胞治療を受けられる社会を実現したいと考えています。

Immense possibility of Geno-Writing™

図2.jpg

もう一つが化学・素材、食品、化粧品、農業用肥料等のものづくり領域です。一例ですが、二酸化炭素を吸収しながら物質生産が可能な水素酸化細菌等、新たな宿主微生物を用いて、様々な産業ドメインで展開活用される種々の産業細胞の出発点となるマスター細胞を充実させています。

図3.jpg

各産業セクターでは、求められる産業細胞は似たような特性が求められるため、あらかじめ重点産業セクター内で共通に役に立つ機能を搭載したマスター細胞を弊社独自のゲノム構築技術によって開発しています。このようにあらかじめ産業セクターごとに異なるマスター細胞を開発しておくことで、各パートナー企業が求める個別の機能をさらにスピーディーに搭載し、多機能細胞を迅速にオーダーメイドできます。

最近では味の素グループとサステナブルなアミノ酸製法の共同開発を進めています。Logomixの大規模ゲノム構築エンジニアリングと、味の素グループのアミノ酸発酵に関する技術や知見を融合させることにより、発酵工程におけるCO2排出量をはじめとする環境負荷を低減した、サステナブルなアミノ酸製法を開発することで、アミノ酸生産バイオサイクルの革新によるグリーンアミノ酸の製造を目指します。

▶︎味の素との共同開発について詳しく知りたい方はこちらのリリースをご覧ください。


―そもそも、石倉様が合成生物学に関心を持ち始めたきっかけや理由を教えてください。

石倉 バイオ領域をやりたいと思ったのは、高校3年生のときです。高校では医学部受験クラスにいましたが、医学系の研究領域に興味があり、物理や生物学、生体工学を学べば研究者として幅が広がるかなと思っていました。

その頃に「アメリカがヒトゲノム配列の概要の解読終了を発表した」というニュースを知り、バイオ技術はこれからどんどん社会実装されていくだろうと将来性を感じたのを覚えています。


―起業への想いはいつ芽生えたのでしょうか。

石倉 研究者としての幅を広げるために応用生物学を大学で学んでいたんです。当初はビジネスに全く興味がありませんでした。

そんな折、大学院に留学するために、アメリカの研究室をいくつか訪問していました。そこでたまたま目にしたのが、サンフランシスコにあるジェネンテック社です。ここはバイオベンチャーのパイオニアと呼ばれる企業で、当時、創業から25年ほどしか経っていませんでした。

にもかかわらず、時価総額でみれば日本の多くの大手製薬会社を超えていて、「バイオ技術を社会還元していく事業が、こんな風に存在するのか!」と衝撃を受け、このくらいのインパクトを与えられる企業をつくりたいと、考えが変わっていきました。


―そこから在学中に創薬ベンチャーの創業に繋がるのですね。

石倉 研究の世界には、天才的な研究者が沢山いて、生涯をかけてアイデアを生み出すことに情熱を注いでいる人たちには、到底かなわないと思いました。自分は彼らの技術の事業化に注力しようと考えました。


―Logomixの起業に向けて、東工大の生命理工学の相澤先生とどう出会い、どのように事業を進めてきたのでしょう。

石倉 起業前は学会やバイオ領域の講演会等、研究者が集まる場によく話を聞きに行っていました。

そこで、知人経由で紹介してもらったのが相澤先生でした。初めて相澤先生に会ったときに壮大な話を聞いて感銘を受け、3時間以上、2人で話し込みました。そこで生まれたものが、Logomixの事業計画の骨子の一つとなっています。

2017~18年には、合成生物学領域の研究成果が発表され始めていて、本領域のKOL(キーオピニオンリーダー)でもある相澤先生のもとには、すでに10社以上の企業から「何かできないか」と相談が来ていました。

そこから事業化していくために、先生の研究基盤をどう活用していくかを、1年半ほどかけて150社以上の企業にヒアリングに行きました。このうち半分以上が海外の企業でした。「こんな大規模ゲノムの改変技術があれば、何に使いたいですか」と、ひたすら聞いて回り、協業プロジェクトを立ち上げていきました。

相澤先生は、ご自身の天才的な創造力を社会課題の解決にコミットされている方で、それを次世代への責任として揺るがない強い信念を持たれています。自社の研究戦略を考えるときにはもちろんですが、相談に来た企業の集中領域を定めるときにも、合成生物学領域のイノベーション全体を俯瞰し、同じ目線で真剣に悩みながら多様なアイデアを提示されます。また、このプロセスを全力で楽しみながら取り組むことをモットーにされておられ、その姿勢がLogomixのコアバリューにもなっています。このような先生とご一緒できたことはとても価値あることでした。


「あの治療用細胞の基盤技術はLogomixのもの」と、世界を驚かせたい

―2022年6月シード期に総額5億円の資金調達を実施しました。今回の資金調達を検討した背景やジャフコとの出会いについて教えてください。

石倉 資金調達をもっと早くしようと思えばできたかもしれませんが、シードラウンドでは、果たすべきマイルストーンが揃ってない段階で資金調達をしない方が良いと考えていました。

人様のお金を早くから預かってしまうと、自分たちも気づかないうちに、適切な組織文化・プロセスを十分に築く前にリソースを分散させてしまったり、向かうべき先を見失ったりしてしまうことがあります。そうならないためにも我々の技術のマーケットフィットが見えてきた段階で資金調達を決めました。

森中 石倉さんに最初にご連絡をしたのは、Logomixが東大IPCの「1stRound」プログラムで採択されたときでしたね。私自身、バイオテクノロジーに携わってきたバックグラウンドがあり、合成生物学の領域に興味がありました。

石倉 私はジャフコの方とお話をするなら、森中さんと思っていたんです。前職の繋がりで、医療機器ベンチャーの方から「森中さんに相談したら、こんなフィードバックをもらいました」と話を伺ったことがあって。

森中 そうだったんですね! 

石倉 実際にお話しして、バイオ領域の知見に長けておられることや、深いマーケット理解をお持ちであられると感じました。

森中さんは、創薬や細胞治療の領域について深い知見をお持ちで、マーケットのポテンシャルとリスクの両面を客観的に見ておられました。事業リスクをチェックされる過程でも、ご指摘の的確さからとても信頼できる方だと感じました。


―投資家の視点で、Logomixにどんな可能性を感じましたか。

森中 投資検討の際に見るのは、経営者とマーケットとテクノロジーです。Logomixは技術自体の先進性も素晴らしいのですが、テクノロジーだけでは勝ち抜けないのがスタートアップの世界です。

石倉さんは、ベンチャー経験や海外経験があり、シリアルアントレプレナーとして大学発ベンチャーや医療機器ベンチャーへの投資実績もあります。

海外展開を明確に見据えて実際にアクションを起こしていましたし、2021年時点で成果を出している合成生物学のスタートアップ企業は国内では珍しかったです。技術を社会実装していく実行力があると感じました。

―石倉さんから見て、様々なベンチャーキャピタルがある中でのジャフコの良さや、実際にやりとりを重ねて感じた魅力はどこにありましたか。

石倉 早期からグローバル展開を見据えていることもあり、今回の資金調達にはアメリカの投資家が多く入っているのですが、日本からジャフコが入っていることが大きな信頼になります。

また、森中さんには、情報提供の早さと正確さに驚かされます。例えば、細胞治療に関して「最近こんな情報がありますが、どうお考えですか」といった最新のフィードバックをいただけるので、取締役会でも議論を進められます。森中さんのキャリアとネットワークがあってこその情報力で、とてもありがたいです。


―これから事業を通じて実現したいことは何ですか。

石倉 10年後というスパンで言えば、今実際に開発している細胞治療の製品を世に送り出すことです。また、カーボンリサイクルに貢献する製品づくりも期待されているので、流行りで終らせずにきちんと社会実装させていくことが目標です。

そして、製品が世に出たときに、「あの治療に使われている細胞は、実はLogomixの技術がベースになっているんだよ」という状態が理想ですね。

パートナー企業の抱えておられる課題にボトムアップで取り組みつつも、10年先、20年先から逆算して課題解決に向き合っていく。そのバランスを考えるのは難しい作業と感じています。


森中 Logomixは、合成生物学の領域で特異なポジションを築くポテンシャルがあります。ヘルスケア、ライフサイエンス領域のグローバルでのプラットフォーム基盤となり、あらゆる細胞や微生物によるプロダクトのベース技術になっていくことを期待しています。

国内では、合成生物学を事業基盤にしている企業はほとんどありません。「合成生物学を頼むならLogomixしかない」という立ち位置になるポテンシャルは十分にありますし、そうなったらとても嬉しいですね。

情報や仲間、運を掴むための準備が大事

―石倉さんが大切にしている「起業家の志」とは? 起業家を目指す方へのメッセージと合わせて教えてください。

石倉 マーケットやテクノロジー、チーム等、スタートアップにおいて重要な要素はたくさんあります。ただ、これらと同じくらい大切なのが、タイミングだと感じています。今のマーケットではなく、将来のマーケットを見据える必要があるため、台頭する新技術や規制変化等、競争環境の変化をいち早く掴む必要もあります。

ネットサーチで出てくるような情報ではなく、バンテージポイントに立っている人たちにしかアクセスできない情報から得られる示唆。シード期だからこそ、そういった貴重な示唆をお持ちの方々に早い段階で仲間になっていただくことが、学習能力の高いチームをつくる上で、とても大切だと思っています。