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「日程調整」×「データベース」が秘める可能性。進化形カレンダーで日本発のグローバルサービスへ
「日程調整」×「データベース」が秘める可能性。進化形カレンダーで日本発のグローバルサービスへ

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第36回は、株式会社Spir 代表取締役の大山晋輔氏に登場いただき、担当キャピタリスト髙橋イリアからの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社Spir 代表取締役 大山 晋輔(おおやま・しんすけ)
東京大学経済学部卒業。戦略コンサルティングファームのコーポレイトディレクション(CDI)の東京・上海オフィスでの勤務を経て、2014年に
株式会社ユーザベースに入社。 ユーザベースではSPEEDA事業の事業開発・プロダクト開発の責任者、営業部門を経て、2017年にNewsPicks USAのCOOに就任し米国事業の立ち上げ責任者として事業戦略策定やプロダクトマネジメント、マーケティング等に従事。 2019年に株式会社Spirを設立。

What's 株式会社Spir
「相手も、自分も、思い通りの調整を。」というコンセプトのもと、ビジネスで利用している複数のカレンダーと連携し、Google MeetやZoomなどのWeb会議の日程調整からカレンダーへの登録までをワンストップで行うことが出来るカレンダープラットフォームである『Spir(スピア)』を提供。登録ユーザー数は10万人を突破し、法人向けのチームプランの提供も開始している。累計資金調達額は7.5億円(2023年2月22日時点)。

Portfolio

日程調整の先のデータ活用まで見据えた『Spir

Spirの事業内容を教えてください。

大山 「相手も、自分も、思いどおりの調整を。」をコンセプトに、日程調整ビジネスカレンダー『Spir(スピア)』を運営しています。昨今、複数の組織やプロジェクトに所属する働き方が増えていますが、『Spir』はそれぞれで使っているカレンダーツールを統合して予定を管理することができます。また、従来の日程調整ツールは、カレンダー上のデータから空き時間を抽出して調整する形が多いのですが、実際に日程調整する際は「案件の優先度に応じて調整したい」「大事な予定の前後はできるだけ入れたくない」等の細かなニーズがありますよね。そうしたことも踏まえて戦略的に調整でき、さらにリモート会議URLの自動設定まで一気通貫で行えます。

現在のメインユーザー層は、スタートアップ等に所属するアーリーアダプターの方や、起業家との日程調整が多いベンチャーキャピタリストの方。あとは大企業のDX推進の一環で特定部署に導入いただくといったケースもあります。

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大山 私はカレンダーの変遷を3つの世代に分けて考えています。第1世代はアナログの手帳。
2世代はGoogleカレンダー等のデジタルカレンダー。どこからでもアクセスでき、自分以外の人と予定や連絡先を共有することが可能になりました。そして第3世代が日程調整機能のあるカレンダー。世界的には、コロナ禍で年間1,180%の成長を記録し、2021年にユニコーン企業となったアメリカ発のCalendlyが有名です。近い将来、大企業も含めて第3世代のツールを当たり前に使う時代が来ると思っています。

ー『Spir』が市場で勝ち抜いていくために重視しているポイントはありますか。

大山 最初から海外展開を見据え、世界を対象にプロダクトを設計しています。ユーザベース時代、『SPEEDA』『NewsPicks』の海外進出にチャレンジし、日本にローカライズされたサービスを海外で浸透させることの難しさを実感しました。カレンダーはそもそも世界共通のインターフェースですが、日程調整時のプロセスやマナーが地域で違う場合もあるため、共通性とローカル性を考慮しながら開発しています。

近年、世界的SaaS企業でPLG(プロダクトレッドグロース/プロダクト自体に営業やマーケティング要素を組み込み、事業を成長させる戦略)が取り入れられていますが、『Spir』もPLG戦略に基づいたSaaS。まずは英語圏を中心に本格的にプロモーション等を仕掛け、グローバル利用を加速させていく予定です。
また、『Spir』で実現できるのは日程調整にとどまりません。カレンダーには様々なデータが蓄積されています。相手と会うのは何回目か、頻度はどれくらいか、打ち合わせのトピックは何か...。そうした「相手との関係性」に関わるデータベースは、ビジネスにおいて非常に価値があるので、今後は蓄積データを可視化してユーザーに有効活用いただくところまで進めていきたいと考えています。

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ー「日程調整」という領域に着目し、起業することになった経緯をお聞かせください。

大山 当社のミッションは「創造性を解放する」。私の父方のルーツは韓国で、私自身も幼少期から多様な価値観に触れて育ちました。新卒で就職したコンサル会社では上海に赴任し、30歳のときには世界一周の旅へ。様々な経験の中で、固定観念にとらわれず多様性を尊重することが創造性の解放へと繋がっていくことを実感し、その後押しをするような事業をやってみたいと思うようになりました。

私の経験上、創造性が解放されるトリガーは「人と話すこと」。『NewsPicks』のアメリカ事業立ち上げを担っていたとき、協業先候補へのアポ取りにとても苦戦したのですが、運よく最有力候補の人物と会えることになり、それが『NewsPicks』の海外展開を加速させることに繋がったという経験もあります。人と会って話す機会を設ける上で最初に必要なのが日程調整。そこをスムーズにすることで、より多くのクリエイティブな瞬間を生み出せると考えました。

ーコミュニケーションツール等ではなく、日程調整にフォーカスしたツールを選んだのはなぜでしょうか。

大山 実は、「創造性を解放する」ための事業アイデアとして最初に考えていたのはHR領域。人材採用をより効率化するソフトウェアをつくれないか検討していた際、活用できるデータベースが日本に存在しないという壁にぶつかりました。日本では、ビジネスで誰と誰が繋がっているかといったデータが最も蓄積されているのはFacebookですが、そのデータは外部に公開されていないんです。そのため事業をピボットせざるを得ず、それがきっかけで「データベースの事業化」という可能性を探るようになりました。

コミュニケーションツールも選択肢のひとつでしたが、既存のツールがたくさんある中でユーザーを拡大するのは難しい。であれば、人とコミュニケーションを取る一連の流れの中で、皆がストレスを感じているポイントを解決するのはどうか。そう考えて行き着いたのが日程調整です。起業となると当然マネタイズも重要ですが、日程調整ツールであれば価値のあるデータが蓄積されるので、データ活用を通じて安定収益が見込めます。ユーザベース時代にデータベースを扱っていた自分の強みも活かせると考えての決断でした。


先んじて投資への意思決定をしてくれた安心感

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大山氏とジャフコ担当キャピタリストの髙橋イリア(左)


20228月にジャフコのリード投資で資金調達を実施されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

大山 最初に髙橋さんとお話ししたのは20212月。シードの資金調達が決まったくらいのタイミングでした。

髙橋 私はもともと『Spir』のユーザーだったんです。仕事柄、経営者の方との日程調整を様々なツールで並行して行っていたので、どうにか効率化したいと思って『Spir』を使い始め、プロダクトとしての精度の高さを実感していました。
また、人と人の繋がりに関わるデータというのは、蓄積すればするほど巨大なサービスが生まれる足がかりになります。その点、カレンダーというツールに蓄積されるデータは非常に価値が高く、アメリカのCalendlyも近年急成長していますが、日本ではまだ着目されていない領域。コロナ禍で名刺交換の機会も少なくなり、「相手との関係性」に関わるデータの価値は今後さらに高まっていくと感じていたので、ぜひ大山さんとお話ししてみたいと思いご連絡しました。

ー資金調達直後に出会ったとのことでしたが、次のラウンドを検討し始めた経緯は?

大山 髙橋さんとは定期的に面談をして事業状況等をお話ししていたのですが、2021年の年末に、「すぐには調達しないかもしれませんが、本格的にオファーを検討したいので、デューデリジェンスを先行して実施させていただけませんか」とご提案いただいたんです。そこまで言ってくれたVCはジャフコさんだけ。私たちの事業に可能性を感じてくださっていることが伝わりました。
ちょうど同じくらいのタイミングでSaaSのバブルが崩壊し、当社も20224月頃から戦略転換することに。それまではアクティブユーザーをグローバルに増やすことに振り切り、マネタイズを後回しにしていたのですが、環境変化でリスクが高まったため、国内でしっかり売上を立ててキャッシュコントロールできる状態をつくる方向へ舵を切りました。その中でジャフコさんは、投資に向けた意思決定を先んじて準備してくださっていた。その安心感は大きかったです。

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ー最終的にジャフコをリードインベスターに選んだ決め手を教えてください。

大山 投資家とスタートアップは、結婚のような関係性だと思っています。事業や組織づくりに対する考え方が合わないとお互いに不幸になる。ジャフコさんは国内最大手かつ老舗なので、トラディショナルな考え方をされる方が多いんじゃないかと勝手に思っていたのですが、実際は違いました。一般的なSaaSPLGを取り入れたSaaSでは評価軸が異なると考えていますが、そこをしっかりご理解いただき、私たちが目指す世界観に向けた価値を評価いただけたことは、大きな決め手になりましたね。

ーキャピタリストとしては、Spirのどのような点が先んじたデューデリジェンス、そして投資実行の決め手になりましたか。

髙橋 先ほどお話した事業の魅力に加えて、PLGのサービスなので、ZoomChatworkCloudSign等のように、ユーザーがユーザーを呼んで爆発的に拡大する可能性も見込めます。
あとは大山さんご自身のお人柄。最初にオフィスにお伺いしたとき、無駄なことにお金を使わない様子が見て取れ、「地に足がついている経営者」だと感じました。一方で、プロダクトドリブンで海外市場を獲りに行くという大きな夢を語る一面もあり、起業家としてとてもバランスが取れている。ぜひ一緒に挑戦させていただきたいと、そのとき改めて思いました。

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世界中で使われる日本発のサービスへ

ー資金調達を完了し、今後どんなことに取り組んでいきますか。

大山 20229月に法人向け有料チームプランの提供を開始しました。今後は大企業の方にも安心して使っていただき、『Spir』の価値をしっかり広めていきたいと考えています。また、2023年中に海外展開を再開し、ユーザー獲得に向けてプロモーション等を強化することも目標です。

ー『Spir』が世界でどのように使われれば、「創造性を解放する」というミッションを達成できると考えていますか。

大山 ある研究によれば、創造性を高めるために重要なのは「どんな時間の使い方をするか」。時間は全人類に平等に与えられているアセットです。その有限のアセットの中で、誰と会って何を話すか、どこに行ってどんな体験をするか。一人ひとりの創造性を最大化させるための意思決定をサポートするところまで、ゆくゆくは『Spir』で実現できれば...と考えています。
世界で当たり前に使われるサービスを目指すには、ChatGPTのような新技術を使った新しいサービスを創るか、すでにあるけれど使い勝手や体験が一新されたサービスを創るか、2つの選択肢があると思います。『Spir』は後者。従来のカレンダーや日程調整ツールの常識を超えた新しい使い方を提示し、世界で使っていただくことができれば、まだ限られた事例しかない日本発のグローバルサービスとして飛躍できるはず。それを機に世界で通用するスタートアップが増えていけば、起業家としてとても嬉しいですね。

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ー最後に、起業家の皆様に向けてメッセージをお願いします。

大山 どの事業ドメインで起業するかももちろん重要ですが、同じくらい重要なのが「誰とやるか」。ベストな仲間と出会い、一緒に事業を成功させるためには、自分自身がオープンなコミュニケーションを取ることが鍵になると思います。一緒にやる中で少しでも懸念を感じたら、いずれ必ず顕在化してしまうので、すぐにお互いの認識を確認して対策を取る。それが最速で結果を出す秘訣だと、これまでの経験から実感しています。私自身も今後組織を拡大していく上で大切にしたいポイントです。


担当者:髙橋イリア からのコメント

22-takahashi.jpg多くのビジネスパーソンが130分以上を費やしていると言われる、営業や採用等の日程調整業務。多重入力や往復の多いやり取りをはじめ、大きな効率化余地があります。また、コロナ禍によるオンライン面談の浸透や副業等の働き方の変化をきっかけに、ニーズの高まりを見せている市場でもあります。
そうした市場の追い風の中、着実に事業を推進するSpir。人物に紐づいたユニークなIDであるEmailアドレスや、人と人の繋がりに関するデータが資産として蓄積されていく、事業の拡張性に注目しています。日程調整という行為自体のバイラル性を活かしたPLG戦略で、SLG SaaSとは異次元の成長スピードを実現する可能性も。世界で成功する日本発BtoBソフトウェア企業になるという前人未到の挑戦を成し遂げられるよう、全力で伴走させていただきます。