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イベントマーケティングプラットフォームで企業と顧客が出会え、繋がる社会を目指す
イベントマーケティングプラットフォームで企業と顧客が出会え、繋がる社会を目指す

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第35回は、株式会社EventHub代表取締役CEOの山本理恵氏に登場いただき、担当キャピタリスト大石奈央からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社EventHub代表取締役CEO 山本 理恵(やまもと・りえ)
米国ロードアイランド州ブラウン大学経済学部・国際関係学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー サンフランシスコ支社に入社し、金融・医療・パブリックセクターのプロジェクトに従事。在籍中に認定特定非営利活動法人Teach For Japanへ出向する。 2016年に株式会社EventHubを設立。

【What's 株式会社EventHub】
エンゲージメントの高いイベント実施と、企業のイベントマーケティングの効果最大化を支援する、イベントマーケティングプラットフォーム「EventHub」を展開。企業が自社の魅力やコンテンツの発信さえすれば、しかるべき顧客と出会え、繋がれる世界を目指す。ミッション実現における重要な機能として、本年1月よりAPI連携を開始し、今後は多種多様な領域のツールとデータ連携を進めていく。

Portfolio

企業のポテンシャルを引き出すイベントマーケティング

ーEventHubの事業内容を教えてください。

山本 イベントマーケティングプラットフォーム『EventHub(イベントハブ)』を運営しています。イベントを通じてリードや商談の獲得、既存取引先との関係性構築等を目指す「イベントマーケティング」において、活動を円滑にする支援や、参加者のエンゲージメントを高めて営業効果を最大限に高める支援を行っています。現在は事業会社様のウェビナーやカンファレンスの事例が多く、オンライン・オフライン・ハイブリッドいずれにも対応しています。

強みは、イベント運営を一気通貫でサポートできること。登録フォームから開催後アンケートに至るまでの参加者管理機能、参加者の行動・視聴ログ取得や対話等のリード管理機能をはじめ、サポート範囲はイベント開催にとどまりません。お客様ごとのカスタマイズ前提ではなくあえてパッケージとして提供しているため、サービスの安定性が高く即日利用可能。動線をカスタマイズしていないので参加者の離脱率が低く、コンバージョンが高まるという結果も出ています。 

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ー元々オフラインイベントを前提としていましたが、コロナ禍初期に早々にオンライン対応へシフトされました。迅速に意思決定できた要因は何でしょうか。

山本 アメリカやASEANでは、以前からウェビナーやバーチャルカンファレンスが当たり前に開催されていて、海外で育ってきたこともあり、私もたまにオンラインイベントに参加していました。ですので「日本にも今後オンラインの時代が来る」と肌感覚として感じていたんです。そこにコロナが来て、ビジネスが全部止まることが目に見えていたので、もうオンラインへシフトする以外の選択肢はないと。当時は社員数も少なく、また事業を開始して間もなかったので、意思決定がしやすい環境でもありました。

結果的にコロナ禍で多くのお問い合わせをいただき、サービスを軌道に乗せる良いチャンスに。イベント参加者も海外の方が10〜15%を占めるようになり、今後海外企業へ導入を進めていく上での土台ができました。

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ー山本様がイベントマーケティングという領域で起業することになった経緯をお聞かせください。

山本 私はイギリスで生まれアメリカで育ち、大学もその後の就職先もアメリカでした。就職したマッキンゼーの出向制度を使って帰国し、のちに退職してフリーランスになったのですが、その時期に日本企業の海外マーケティングを担当していました。

そこで感じたのが、日本の製品はクオリティがとても高いのに、PRやマーケティングはまだまだ改善の余地があるな、ということ。とあるスタートアップでは、私が海外マーケティングに関わってから1か月で海外メディア160社に取り上げられたり、BBCラジオに出演できたりしたことで、日本企業の海外でのポテンシャルを改めて実感したんです。出会いのきっかけと、言語の壁や海外のビジネスパーソンとのグリップさえクリアできれば可能性は十分にあると。

少子化で人口が減っていく中、日本企業は海外マーケットに進出しないと衰退してしまう。そうならないように支援する上で最適な手法を考えたときに、イベントマーケティングにポテンシャルを感じました。

例えば、まだ知られていないサービスを伝えるうえで大事なことは、どんな世界観を実現できるかを知ってもらうこと。WebサイトやWeb広告の場合、数秒間テキストを読んで理解できる範囲のことしか伝えられず、サービスの魅力が伝わりきらないことが多いと思います。

一方でイベントマーケティングは、お客様にある程度の時間をいただき、対話や体験を通じて世界観をしっかりお伝えできる唯一のチャネル。なかなかバリューを伝えにくい最先端のプロダクトでも、体験や対話を通じで新しい価値観に共感してもらいやすいと思います。お客様と一緒に世界観を共有できるからこそ、出会うべきお客様と出会えるのがイベントマーケティングの魅力だと考えています。


ー起業という道を選択されたのはなぜでしょうか。

山本 私は仕事をする際、「自分が関わることで社会がどれだけ前進するか」を重要視しているのですが、当時の日本ではこの領域で起業している人がいませんでした。「気づいた人がやる」じゃないですけれど、自分がやれば社会が前進する後押しになるのではないかと思ったんです。とりわけ起業のリスクも感じていませんでした。この領域でアメリカだったらもう6人くらいは起業していると思うので、アメリカに住んでいたら起業していなかったと思います(笑)。

元々私は「リアル」の要素があるビジネスが好きでした。過去に携わったビジネスの中でも、ホテル立ち上げや宇宙事業といったWebだけに閉じない領域を好んでいました。また、海外での経験もあったので、国境を越えるようなサービスにも興味がありました。イベントの経験はなかったのですが、せっかく事業をするなら自分が興味関心を抱いている領域が良いと思い、今に至っています。

ー起業からこれまでを振り返って、最も苦労したエピソードをお聞かせください。

山本 2022年に入って「オフライン回帰」という逆風が吹き、さらにアメリカではスタートアップが資金調達に苦戦する「スタートアップ冬の時代」が到来すると言われていました。そんな中、当社は長らく資金調達をしていなかったため危機感を抱き、コストカットを強化した時期がありました。社員の解雇はしなかったものの、ツールの見直しや一部業務委託メンバーとのお別れ等、ポジティブではない経営判断をせざるを得ませんでした。


長い目線で継続的に、EventHubに可能性を感じてくれた

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山本氏とジャフコ担当キャピタリストの大石奈央(左)

ー2022年11月にジャフコのリード投資でシリーズAラウンドに6.5億円の資金調達を実施されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

山本 実はジャフコさんとの最初の出会いは創業直後の2016年でした。その後も、数回ほど情報交換をさせていただいていたのですが、大石さんと井坂パートナーとお会いしたのは2020年です。

大石さんの第一印象は「新人の可愛らしい方」。でも、当時はシードラウンドを終えたばかりで資金調達を考えていなかったにもかかわらず、その後も積極的に連絡をくださって、「意外とパワフルでガッツのある方なんだな」等と、どんどん印象が変わっていきましたね。それから2年間、2〜3か月ごとにお会いして情報交換させていただきました。

ーキャピタリストとしては、EventHubのどのような点に魅力を感じたのですか。

大石 最初にご連絡したときはまだ入社1か月目だったので、キャピタリストとしての視点は未熟でしたが、山本さんがピッチする動画を見て「この方に会ってみたい!」と直感で思ったんです。私も新卒でこの会社に入りたいと思えるようなリーダー像だったと言うか...。面談を重ねるにつれてその印象は強まり、何百人・何千人もの社員が山本さんについてくる未来が見えました。

実は私自身、1年目のときに『EventHub』でスタートアップのイベントに参加したことがありました。私はコロナ禍での入社のため、リアルイベントで起業家とコミュニケーションを取る機会がなく悶々としていました。そんな中、『EventHub』を使ってみたら様々な方が連絡をくださり、私からもDMを送ってアポを20〜30件獲得することができたんです。そのとき知り合って今でも繋がっている方もいます。そうした実体験もあり、イベントマーケティングのDXを通じてより「本質的な仕事」「やりがいのある仕事」にリソースを割ける社会を目指す同社を、ぜひ支援させていただきたいと思いました。

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ー山本様がジャフコをリード投資家に決めた理由はどこにありますか。

山本 2020年当時、コロナでオンライン関連ビジネスの市場が盛り上がり、多くのVCさんからお声がけいただきました。その中でも早い段階から、しかも資金調達ニーズがなかったにもかかわらず継続して連絡をくださったのがジャフコさん。「長い目線で継続的にEventHubに可能性を感じてくれているかどうか」は、私が投資家を選ぶ上で大切にしているポイントだったので、今回のラウンドを検討し始めたときは最初にジャフコさんにご相談しました。

大石 何度も連絡してご迷惑だろうなと思っていたから安心しました(笑)。社内では私が一番EventHubに対して熱量を持っていたので、上司を巻き込んで行動し続けて良かったです。

ー今後ジャフコに期待することを教えてください。

山本 たくさんあります(笑)。ジャフコさん社内の投資先支援チームにコーチの方がいて、コーチングを受けさせてもらえるのも楽しみです。あと、スタートアップはフェーズごとに採用や人事の課題が変わってくるので、その都度ご相談したいと思っています。

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魅力的な製品や企業が、しかるべきお客様と出会える社会へ

ー資金調達を完了し、今後どんなことに取り組んでいきますか。

山本 まずは採用。エンジニア、営業、あとは海外展開等を強化していきたいです。中長期的にはイベントの集客支援や、自動通訳機能等による言語の壁を越えたマーケティングも可能にしたいですね。

また、2022年11月に『NewsPicks』を運営するユーザベースと資本業務提携し、動画マーケティングの推進に力を入れています。近年BtoCビジネスでは動画や体験型のマーケティングが重視されていますが、おそらくBtoBでも今後そうなっていくはず。オンラインイベントは開催すればするほど動画アセットが蓄積されるので、例えば動画配信サービスのように関連動画がレコメンドされて、試聴すればするほど理解が深まるといった、「動画」と「体験」を主軸としたプラットフォームに進化させていきたいと考えています。

ー山本様が事業を通じて実現したい社会について、ビジョンをお聞かせください。

山本 魅力的な製品や企業がしかるべきお客様と出会い、ビジネスに繋げることができる社会です。実際に、『EventHub』でカンファレンスを開催したら潜在顧客1万人と出会えた、海外の企業との企業と商談できた、といった声をいただいています。自社でも『EventHub』を使ってウェビナーを開催していますが、商談化率は3割以上、アンケート回収率は9割近くにのぼる等の成果が出ています。

オンライン上のコミュニケーションを駆使したマーケティングは、日本ではまだ黎明期。各社がノウハウや場数を積んでいけば、効果を高められる余地はまだまだあります。その支援を通じて社会を前進させていくことが私の目標です。

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ー最後に、起業家の皆様に向けてメッセージをお願いします。

山本 「こういうタイプの人が起業家になる」「起業家たる者こうでなければいけない」といった固定観念にとらわれず、自分のスタイルを探すことが大事だと感じます。リーダーシップのある人は皆を引っ張っていけば良いし、弱みを見せられる人は皆に助けてもらいながら経営すれば良い。周りの起業家を見ていても「こういうタイプだから成功する」という方程式は全くありません。

私はアメリカで育ち、様々な考え方やバックグラウンドを持つ人に常に囲まれていたので、多様性のある環境の良さを知っています。画一的な組織のほうがスピーディに事業を回せますが、これからの時代、中長期的に考えたら強い組織に成長できない。多様な人材が集まりながらもスピーディに協業できるというDNAを持った組織をつくることが、起業家として大切にしていることです。自分の軸を大切にしながら挑戦する起業家が今以上に増えることを願っています。


担当者:大石奈央 からのコメント

42-oishi.jpgコロナ禍でオンラインイベント市場が急成長し、ウェビナー等を始める企業が増えましたが、今後はもう一段上のレイヤーへ移るフェーズに突入します。ウェビナー参加者のうち本当に接点を持ちたいお客様といかにコミュニケーションを取るか、商談率や売上をいかにアップさせるか。そこを戦略的に考えてマーケティングを効率化していく上で、EventHubは必要不可欠な存在になるでしょう。ユーザー視点で考えても、自分が得たい情報を障壁なく得られ、国や地域を越えてコミュニケーションが取れる社会は理想です。山本さんは企業や人をグローバルに繋げることにも長けている経営者なので、EventHubがそうした社会を実現していく立役者となることに期待しています。