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身体の痛みからメンタル不調までサポート。健康経営ソリューションで日本の労働生産性を上げていく
身体の痛みからメンタル不調までサポート。健康経営ソリューションで日本の労働生産性を上げていく

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
32回は、株式会社バックテック代表取締役の福谷直人氏に登場いただき、担当キャピタリスト清田怜からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社バックテック代表取締役 福谷直人(ふくたに・なおと)
藤田医科大学を卒業後、臨床業務に従事しながら修士課程を修了。京都大学大学院医学研究科にて博士号を取得後、株式会社バックテックを創業し代表取締役に就任。プロダクトの成果が国際的な医学誌や厚生労働省等のHPに掲載されるなど、「未来のヘルケアの当たり前」となる、成果に基づくヘルスケア事業を創っている。

What's  株式会社バックテック】
医学的エビデンスに基づき、組織と個人のウェルビーイングを支援する「ポケットセラピスト®」を運営し、コニカミノルタ・キリンビール・SHIONOGIグループ等の大手企業/健保に導入している。勤労者の「カラダとココロの痛み」を解決し、日本の労働生産性の向上を推進している。
202210月にジャフコをリードインベスターに4.5億円の資金調達を実施。

Portfolio


来院を待っているだけでは社会は変わらない。医療現場で感じた課題が起業につながった

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―バックテックの事業内容を教えてください。

福谷 主力サービスは「ポケットセラピスト®」というヘルスケアサービスです。組織と個人のウェルビーイングを実現しようというコンセプトで、B to B to Eの法人向けオンラインサービスとして提供しています。多くの企業が組織課題として、労働生産性を下げる要因となる「従業員の身体の痛みやメンタル不調」を抱えています。「ポケットセラピスト®」は、そういった不調によるパフォーマンスダウンを可視化し、解消するソリューションを提供することで、心身のケアにより労働生産性の向上を目指すサービスです。
また、「ポケットセラピスト®」を起点にしながら、ESG経営に関わる「ワーク・エンゲージメント」「アブセンティーズム/プレゼンティーズム」等の指標を、企業の中長期的な方針に合わせて設定・可視化し、PDCAを回すサポートもしています。

―「ポケットセラピスト®」は具体的にはどのような症状にフォーカスを当てていますか

福谷 日本人の労働生産性を低下させる要因として、1位に肩こり、3位に腰痛があります。加えて、メンタル不調を感じている方の約8割は肩こりや腰痛、頭痛等の身体の痛みを持っているという研究データもあることから、2016年の起業当初は肩こりと腰痛という身体の痛みによりフォーカスを絞っていました。
2020年以降はコロナ禍の影響で、メンタル不調の課題が大きくなってきたこともあり、サービスの幅としてメンタルを含めた「心身のケア」へと広げ、企業との接点を増やしています。

―肩こりや腰痛というフィジカルな課題に、オンラインでどう向き合い、ケアを提供しているのでしょうか。

福谷 「ポケットセラピスト®」導入企業で多いケースでは、年に1回企業内でストレスチェックを行い、1015%ほどの高リスクメンバーに対し産業医が個別データを見ながら面談の場を設けます。そこで肩こりや腰痛がある方に「ポケットセラピスト®」を利用してもらい、オンライン上で生活習慣の改善やエクササイズの提案を行っていきます。

肩こりや腰痛は、リアルに身体を触ってもらわないと良くならないだろうと思う方は少なくありません。でも、実は身体を触ってもらって改善される人は、多くの場合、発症後3か月以内の方たちだけなんです。しかし、肩こりや腰痛がある方の9割は、3か月以上悩んでおり、医学研究では3か月以上痛みが続く慢性的な症状は身体だけではなく、ストレス状態や生活習慣、そして、物事の考え方等が関係していることが明らかになっています。そこで、物事の捉え方がポジティブになるよう、考え方のクセを学び直すオンラインセッション等のサービスも提供しています。

私がもともと研究職 ということと、  創業以来「オンラインで本当に身体が良くなるのか」という指摘は数多く受けてきたこともあり、当社では大学と共同研究をしながら、国際論文をまとめ、具体的な対策の情報提供につなげてきました。そういった過程を経て、医学的根拠に基づいたソリューションが提供できている点も、強みとなっています。

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―ヘルスケアサービスを事業として選んだ背景を教えてください。

福谷 私は京都大学大学院で博士号をとり、「従業員の健康にどう投資したら企業の成長戦略を描けるか」をテーマに研究していました。高校まではプロ野球選手を目指していたのですが怪我をして挫折。リハビリを通じて理学療法士に出会い、医療の道に興味を抱きました。
起業を考えるきっかけは、大学院時代に研究と並行していた、病院での勤務経験でした。あるとき、ホテルに勤務していた40代の女性が、「腰が痛い」と足を引きずりながら病院に来たんです。身体の痛みを持つ方は約7割がうつ症状が出るという研究論文がありますが、その方はすでにうつ病も併発していて、仕事を辞めてから来たと言いました。その出来事も含め、限界になってようやく病院来た、という方の多さに「医療職の私たちが"病院で待ち受けている"だけでは、社会は変わらない」と思ったんです。

日本の労働生産年齢人口は減り続けますし、OECD加盟国の中で、日本の生産性は1970年以降低迷が続いています。身体の痛みを放置して生産性が低いまま仕事を続ける、そんな状態が続けば、日本の経済は発展しません。腰痛がある方は日本に約2800万人いますが、一生涯で病院に来る方は500万人のみ。腰痛は健康寿命の低下要因の1位とWHOも発表しています。テクノロジーさえ使えれば、病院に来られない人たちに職場や家でもアプローチできるはず。医療現場で感じたそんな想いが、「ポケットセラピスト®」の軸になっています。

―起業に向けてどう動き出しましたか。

福谷 大学院で開催された「起業家育成プログラム」に参加し、半年かけて今の事業構想につながるプロトタイプを作りました。ユーザーインタビューと称して、近くのカフェやバーに出かけ、疲れていそうなビジネスパーソンを見つけては「こんなサービスを作りたいんです。話を聞かせてください」とヒアリングしたこともありました。自身の不調について熱心に語ってくれる方が少なからずいて、ここに社会課題があるはずだ、という想いを強めていきました。
そのプログラムの最終ピッチは、2位という悔しい結果でした。でも、当時審査員だったエンジェル投資家の瀧本哲史さん(故人・元京都大客員准教授)が、「僕の中では君たちが1位。今すぐ起業しなさい」と声をかけてくださったんです。その言葉がすごく心に残っていて、「アイデアを出すだけでは社会的な価値はない。実行しないと意味がない」と思いました。あまりリスクを考えない性格もあって、一旦起業してみよう、とやってみることにしました。

 創業前の2015年には様々なビジネスコンテストにも参加し、審査員や参加者の方々の声を聞いて、事業の解像度をブラッシュアップさせていきました。ジャフコの清田さんに出会ったのも、ビジネスコンテストがきっかけでした。

―起業時や起業後の大変だったエピソードを聞かせてください。

福谷 大変なことしかなくて語り切れません()。いまでこそ「健康経営」という概念が広がっていますが、2016年の起業当初はまったくニーズがなかったからです。多くの上場企業を回りましたが、当時は「従業員の健康のために、なぜ企業がお金を出さなければいけないのか」という声を多くいただきました。ニーズを喚起できるようなセールストークもできず、健康への投資だからこそ、短期スパンで費用対効果を示しにくい点でも苦戦しました。
一方で、エンドユーザーの中には、いくらお金をかけても肩こりや腰痛を治したいという人がたくさんいました。そこで、個人向けのプランから仮説検証をスタートし、法人向けにシフトしていく方針に切り替えることに。「健康経営」の概念が広がり始めたときに、法人向けのサービスへと再度ピボットしました。 

―「ニーズがない」という現実にぶつかっても、事業の軸がぶれなかったのはなぜでしたか。

福谷 研究のバックグラウンドと病院での勤務経験があったからです。「企業の皆さんはまだ気づいていないだけだ」「この先、従業員の健康に取り組まなくてはいけない時代が必ず来る」と確信していました。


ブレずに社会課題に向き合う。逃げない姿勢に信頼を感じた

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福谷氏とジャフコ担当キャピタリストの清田怜(左)

202210月、ジャフコをリードインベスターにシリーズBラウンドで4.5億円の資金調達を実施しました。
 そもそもの資金調達を考え始めた経緯とVCとどのようにコミュニケーションをとっていたのか教えてください。

福谷 元々、肩こりや腰痛という社会的に大きな課題を扱う以上は、資本を入れてしっかりやっていこう、と考えていました。創業して2か月のタイミングで、大阪市のアクセラレーションプログラムでピッチをしたところ、VCの方がその場で出資を決めてくださったこともあり、そのタイミングから真剣にこれからのエグジットストーリーを考え始めました。
自分の人柄や事業の仮説検証結果を、時間をかけて理解いただいているVCの方と一緒にやりたかったということもあり、ファイナンスをしない時期も、VCの皆さんと定期的に会って情報のアップデートをさせていただいていました。清田さんと出会ってからも年に12回はランチに行って、信頼関係を大事に築いていき、組織をさらに強くして事業をドライブさせるための今回の資金調達のタイミングで、ご一緒することができました。

―ジャフコの視点から起業家としての福谷さんの魅力と、出資を決めた理由を教えてください。

清田 魅力はたくさんあります。まず一つは、なぜ起業するのかという想いの強さです。生半可な気持ちでは、起業というのは大変すぎて心折れてしまいがちです。でも福谷さんは、ブレずに課題に向き合い続けていた。この事業からちょっとやそっとでは逃げないし、成功するまでやり続ける人。長い時間をかけて、そう確信していたので、ぜひご一緒したいと思っていました。
2つ目は、コミュニケーションの取り方が相手想いで、とても気持ちが良いこと。一緒に事業を大きくしていくパートナーとして、相性の良さは欠かせないと思いました。
3つ目は、スピード感と数字感覚の強さです。投資検討の段階で特に強く感じたのですが、質問に対する回答が1日以内には必ず返ってきて、安心感がありました。明確な数字とエビデンスに基づく形で話をされるので説得力もあります。ここは、福谷さんならではの強みだと感じています。

福谷 嬉しいですね。起業家視点としては、「会わない期間中にどれくらい成長しているか」を常に試されていると感じていました。半年後に会ったら、以前の課題がまったく解決していない...となれば起業家としての適性が疑われます。だからこそ、定期的に会う時間にとても意味がありました。意見をもらったことは必ず仮説検証をしていましたし、以前と同じ自分ではダメだ、という意識を常に持っていました。

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―福谷様がジャフコを選んだ理由もお聞かせいただけますか。

福谷 出資検討の段階から、起業家の時間を本当に大切にしてくれたからです。私の時間を一瞬たりとも無駄にしないという意識が言動ににじみ出ていました。例えば、手が回らず後回しになっている事業に関する数字があっても、「今の状況では管理が難しいと思うので、私たちが全部整理します。データだけ出してください」というスタンスで接してくれたりと、起業家は事業優先で時間を使うべきだと、寄り添ってくれる姿勢がありがたかったです。

実際に、これまで事務作業や数字管理に多くの時間を割かれていたのですが、その型をジャフコさんが一緒に作ってくれたことで、事業に集中できる環境が整っています。ここからは人材採用や営業に時間を使い、事業と組織を共に伸ばしていきたいです。直近では、売上を伸ばすための強い組織づくりに向けて、エンジニアからカスタマーサクセス、セールス等、全方位で採用を強化していきたいですね。


「ポケットセラピスト®」一つで心身の健康を手に入れられる社会を目指す

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―バックテックの今後の展望と事業を通じて成し遂げたいことを教えてください。

福谷 「健康経営」は今、事業が持続的に成長する上で欠かせない取り組みになっています。まずは上場企業において、私たちのサービスを導入して企業価値を高めることが当たり前な社会にしていきたいです。そして、中小企業に対しても仮説検証を進め、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化できるようサポートしていきたいと思っています。

現在は肩こり、腰痛からメンタル不調まで広げてサービス展開していますが、今後は、PMS(月経前症候群)等の女性特有の症状などへの横展開も考えていきます。さらに、「リアルで診てもらいたいけれど、どこに行けば良いかわからない」という方に向けて、オンラインとリアルの連携も進めていきたいです。例えば山手線沿いの駅ナカや駅チカに「ポケットセラピスト®」の認定治療院を設置し、契約企業の従業員の方はすぐに利用できたら理想ですよね。心身の健康に関する相談から具体的なアクションまで、「ポケットセラピスト®」一つで完結できる世界を作りたいと思っています。

-福谷様が起業家として大事にしている考え方、「志」とは何ですか。

福谷 圧倒的なユーザー当事者意識です。起業当初、医療現場しか知らなかった私は、企業人事や健康保険組合のオフィスに行って仕事をさせてもらっていたんです。その場にいると、人事の方の抱えている課題等が見えてきて、事業のアイデアにつながっていきました。
今でも、お客様のところにふらっと顔を出しに行くと「そういえば、ここが使いにくいんです」等と教えてくれる方がいます。課題のある場所に行くことは、事業創りの原点だと考えています。

―最後に、起業家を目指す方に向けてメッセージをお願いします。

福谷 何よりも「諦めないこと」が大事です。解決したい社会課題があるのなら、成功するかどうかはわからなくても、やり続ける。それしか、成功確率を上げる道はありません。自分たちの後世に渡したい社会を作るのが私たちの世代。未来のある社会を渡せるように、一緒に進み続けていきましょう。


担当者:清田怜 からのコメント

15-kiyata.jpgESG 経営やSDGs の浸透を背景に、「健康経営」に取り組む企業が急増しています。ただ、従業員の健康状態や、その先の生産性を含めた非財務情報を定量的に評価するのは難しく、各社が試行錯誤をしている状況でしょう。その中でバックテックは、非財務情報の可視化から、改善のためのサービス提供、その後の検証まで、一気通貫でサービスを提供しています。主力プロダクトである「ポケットセラピスト®︎」は、医学的エビデンスに基づく形で「肩こり」「腰痛」といった慢性疼痛の改善に加え、カラダの痛みにアプローチすることで、メンタル不調といったココロの痛みの改善にも効果的なサービスを提供しており、非常にユニークなポジションを確立しています。同社の成長により、日本全体の生産性向上に寄与できるよう私もサポートしていきます。