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超高齢社会に欠かせないインフラへ。「スマート家族信託」で社会の安心を創る
超高齢社会に欠かせないインフラへ。「スマート家族信託」で社会の安心を創る

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
21回は、「スマート家族信託」を運営するトリニティ・テクノロジー株式会社代表取締役の磨和寛氏にお話を伺いました。


【プロフィール】
トリニティ・テクノロジー株式会社代表取締役 磨和寛(みがき・かずひろ)
2004年に立教大学法学部卒業後、司法書士試験に合格。2009年に司法書士事務所トリニティオフィスを開設。その後、司法書士法人トリニティグループ設立に伴い代表社員に就任。202010月にトリニティ・テクノロジーを創業。


【What'sトリニティ・テクノロジー株式会社
202010月創業。「法律×人×テクノロジーで、安心のある世界をつくる」をミッションに、20215月、家族信託の財産管理クラウドシステム
「スマート家族信託」をローンチ。202111月、ジャフコをリードインベスターに、シリーズ A ラウンドで約6.1億円の調達を実施した。

Portfolio


社会の過去と今をつなぐ法律の世界に魅せられた

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―はじめに、トリニティ・テクノロジーが手掛ける「スマート家族信託」とはどんなサービスなのかを教えてください。

スマート家族信託」は、信託したお金や資産をアプリで管理できる財産管理クラウドシステムです。データ連携により銀行口座等の情報を自動で取得し、家族の財産を安全に、手間をかけずに管理することができます。そもそも家族信託とは、高齢者が自分の財産管理を家族に託し、相続をスムーズにする仕組みのこと。超高齢社会に突入している今、認知症による資産凍結や高齢者狙いの詐欺被害等から財産を守ることが、誰にとっても重大な課題となっています。

司法書士法人トリニティグループには、業界トップクラスの家族信託サポート実績があります。その運用経験をもとに家族信託の仕組みを広く普及させることが、社会課題の解決に繋がると考えたことから生まれたサービスが「スマート家族信託」です。

―司法書士法人を20097月に立ち上げていらっしゃいますが、起業を考えるようになった理由とは?

学生時代は自分が起業するなんて思ってもいませんでしたし、法律にすら興味を持ってなく、私が没頭していたのは、音楽でした。
きっかけは14歳のときにブルーハーツに出会ったこと。激しさの中に優しさがある音楽性に心を打たれ、その1週間後にはギターを買って作詞作曲を始めました。以来10年間、音楽以外のことは何も考えていませんでした。プロになりたいとかお金を稼ぎたいという願望があったわけでもなく、ただ音楽という表現に夢中になっていたんです。

大学時代は、自費で全国ツアーを主催し、そのために休学してアルバイトに明け暮れる日々。そして24歳になったとき、"やりきった感"という根拠のない自信だけが残りました。自己満足の世界から抜け、ふと自分を見つめ直したときに「私の、これだけのエネルギーを人のために向けたら、社会の力になれるんじゃないか」と思ったんです。そこで、大学に戻り、法律の勉強を始めました。

―なぜ法律の世界を、そして司法書士の道を選んだのでしょう。

付属高校から大学に進学したとき、たまたま法学部を選んでいたからです()。でも、勉強を始めてみたら、法律はすごく奥深くて、世界と繋がっている感じがしました。平和や平等等への思想があり、それに基づいて憲法が作られ、その下に法律があり、細かい条例が連なっている。過去の反省が現在の思想に繋がっていて、すごく美しいな...とのめり込んでいきました。

司法書士を選んだのも、自分にもできそうだったからという安易な理由です。大学生協の書籍コーナーに行ったら、弁護士、税理士と並んで、司法書士の教材に「一発合格!」と書かれていた。これならできると挑戦したのですが、結局、3発目までかかってようやく合格できました。

今振り返っても、音楽に没頭していた私を"休学扱い"にしておいてくれた両親には、感謝してもしきれないですね。


インフラとして普及させるために、テクノロジーを組み合わせた

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―法人を立ち上げるまでの経緯、そして、「家族信託」に強みを持つようになった経緯についても教えてください。

2007年に試験に合格してから、2年間は企業法務系の司法書士事務所で経験を積み、2009年に独立しました。子どもの頃から、人に言われて何かをすることが苦手だったので、独立する決断はごく自然なものでした。でも、起業してみたら仕事が全然ありませんでした()。企業法務系で何かできたら...とイメージしていたのですが、企業との個人的な繋がりがなかったので当たり前です。必死で飛び込み営業をして、中小企業のお客様をたくさんサポートできるようになっていきました。

多い年には、中小企業を年間2000件近く担当。自信がついてきた頃から「個人に対してはどんなサービスができるだろう」と考えるようになりました。そこで注目したのが、相続案件でした。

創業して5年目には年間500600件の相続案件を担当するようになり、様々な課題が見えてきました。例えば、夫を亡くした妻が、資産にかかわる重要な書類の置き場を全然把握していなかったり、亡くなったあとに、いろんな金融商材を買わされていたことが判明したり...。残された方が高齢だと、ご自身にも認知症リスク等の健康面の懸念が多く、途方に暮れてしまいます。

色々なケースを目にしたことで、財産管理を子どもに任せられるサービスがあれば、もっとお客様にためになるのではないかと、家族信託に行き着きました。


―家族信託サービスを始めて、どのような手応えがありましたか。

当時は、士業の世界で家族信託サービスはほとんどありませんでした。そこで、契約書をゼロから作って1件目となるお客様に提供したところ、
「磨さんに出会えて本当によかった」とすごく感謝されたんです。

それから件数を増やしていき、一般の個人のお客様から、一部上場企業の社長さんまであらゆる方が同じような状況に陥っていることに気付かされました。超高齢社会が本格化する中で、これは必要不可欠な社会インフラになると確信しました。

―社会インフラとして普及させる必要性から、家族信託サービスにテクノロジーを組み合わせた「スマート家族信託」へと繋がっていくんですね。

そうです。いち司法書士法人だけでサービスを展開していたら提供できる人数が限られてしまいます。そのため、もっと大きなプラットフォームを作れないかというのは、201718年あたりから考えていました。

法律系の士業に携わっている人は日本全国に10万人以上います。みんなが我流で家族信託を作ってしまうと、法律や税務の観点から複雑な問題が起きてしまう。標準化させて使える家族信託サービスがあれば、エンドユーザーにとっても安心です。そんな想いから、2020年にようやく開発に結び付けることができました。


多様な組織づくりの軸に「安心の社会づくり」がある

―司法書士法人からテクノロジー企業を立ち上げるとなると、必要な技術、人材が変わってきますね。まず何に取り組みましたか。

私がテックの世界の人間ではないので、自分にないものはチームで解決するしかないと考えたことから、最初にキーパーソンを見つけようと、創業直後からCTOの採用に注力しました。SNSの繋がりを辿り、150人くらいのエンジニア人材にメッセージを送り、オンライン面談を実施しました。
そのうち1割の方に事業プレゼンできる時間をいただきました。

現在CTOの大谷真史とは、ある株主を通じてSNSで繋がりました。彼は、スタートアップから大手まで幅広い企業で社外CTOや技術顧問を歴任してきた、技術もビジネスもわかる人でした。ちょうど前職を辞めるタイミングで会い、「スマート家族信託の社会性」「スケールする可能性」について熱量を込めて話したところ、業務委託でジョインを決めてくれました。当初は、私の言っていることがキレイごとに聞こえていたみたいですが、2021年の8月に取締役で入ってもらうことになりました。

―大谷さん自身も、サービスをローンチ後、お客様からの反響に手応えや可能性を感じたということでしょうか。

そうだと思います。お客様のニーズは想像以上でしたから。今我々が家族信託をサポートするお客様はほぼ100%、「スマート家族信託」を使っていただいています。

お客様からすれば、お金のことは、面倒くさいけれどやらなければいけないこと。親が認知症になり銀行口座が凍結されて親のお金を引き出せなくなったら、子どもがお金を立て替えなければいけない。そうなった方が大変ですが、家族信託は信託帳簿の作成・管理内容の報告等が発生します。そこで、煩雑な管理をアプリが自動で口座情報や購入履歴を取り込んで管理してくれる「スマート家族信託」を紹介すると「絶対使いたい」と言っていただけます。今後、親が認知症になるかもしれないという可能性を考えれば、当てはまる人は多く、「スマート家族信託」の対象マーケットは、非常に幅広いと言えます。

―組織づくりで苦労されたことはありますか。

私が急にテクノロジーの会社を創ると言い出したので、当初は混乱したメンバーもいたと思います。20数名の社員中、エンジニアは外部採用ですが、約半分は司法書士法人から転籍しているので。士業の専門家とエンジニアは、そもそも住んでいる世界が違いますし、さらにセールスチームもいます。組織内の多様性をどう生かしていくかは、これからもずっと考え続けるべきテーマですね。

―多様性のある組織づくりには、何が大事だと考えていますか。

ミッションだと思います。私たちはシステムを作っているわけでも、それを売っているわけでも、コンサルティングしているわけでもない。私たちは安心を創っているんだ、という話をメンバーとはよくしています。

家族がいなくなってしまったらどうなるのだろう、自分の死後に家族に迷惑をかけるのではないか...。そんな様々な不安を取り除いていくことが、私たちの存在意義です。安心のある社会を作ろうという想いには、どんな職種のメンバーも共感しています。その軸をぶらさないことが大切だと思います。


ジャフコからの資金調達が、幅広い信頼につながっている

_DSC2621.jpg磨氏(中央)、ジャフコ担当キャピタリストの宮川由香里(左)、小沼晴義(右)

202111月に、ジャフコをリードインベスターに、シリーズ A ラウンドで約6.1億円の調達を実施しています。まず、ジャフコとの出会い、最初の印象について教えてください。

担当キャピタリストの小沼さんに会ったのは、20217月でした。以前から、ジャフコの投資審査はすごく厳しいと、周りの起業家や株主から聞いていました。それならば、"洗礼"のように受けておいた方が良いのではと思い、つながりのあったジャフコの別部門の方に、小沼さんを紹介してもらいました。

話してすぐに、直感的に良いなと思いましたね。小沼さんは、良い意味で力が抜けていて、あらゆるものを受け止めて吸収する人。小沼さんが担当し、IPOをしたChatwork CEOの山本正喜さんには「出資後のサポート体制もすごく良いよ」と言われていました。また、実績の豊富なジャフコさんから出資いただけること自体に、"お墨付きをいただいた"という評価が生まれます。実際に調達後、金融機関や株主からの信頼が上がっており、そうした点でも非常に魅力的でした。

IPOを目指すことは、当初から固まっていたんですね。

そうですね。創業時から、スケールするマーケットで展開するには、ヒト、モノ、カネ、情報、あらゆるものを集めていくべきだと考えていました。

―資金調達が決まるまでの経緯、調達後のサポートはどのように見ていますか。

20217月に初めてお会いしてから、8月までの1か月間で何度もミーティングを行い、あらゆる議論を進めていきました。そのスピード感には驚きました。

そして、サポートの手厚さは、まさに今実感しています。サービス拡大に向けては、家族信託の相談を受ける金融機関に「スマート家族信託」を扱ってもらうことが重要です。ジャフコさんには金融機関を多く紹介してもらっていますが、ジャフコさんへの信用から話を聞いていただけることが多いですね。これからは、人事・評価制度の構築に力を入れていきたいのですが、HR領域のノウハウも豊富にあり、とても心強いです。


自由と責任を楽しめるなら、起業は最高に面白い

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―今後実現していきたいことは何ですか。

とにかく、「スマート家族信託」を広めていくこと。高齢者にとって安全安心な財産・資産管理と承継を提供していきたいです。
まだまだ認知度が低いので、「スマート家族信託」の提案者を増やしていくことが普及のキーだと考えています。事業者向けのセミナーを積極的に行い、事業者から個人のお客様に提案していただくことで、サービスを広げていきたいです。

―起業家として、一貫して大事にしてきたことや信念はありますか。

私が大好きな言葉に、糸井重里さんの「ほぼ日の社是」である「やさしく、つよく、おもしろく」があります。まず「やさしさ」があって、それを実現するために「つよさ」が必要で、私たち自身がわくわくしてやっていける「おもしろさ」がある。その感覚を大事にしてきました。強さだけのビジネスなら、違う事業でも創れたかもしれません。でも、一番大切なのは、社会に貢献しているのか、お客様からありがとうと言われるのか、という点です。

―これから起業家を目指す方へのメッセージやアドバイスをいただけますか。

私は、人の幸せの最上概念は「自由」だと思っています。起業には、何をやっても良いという、最高の自由があります。責任はつきまとうけれど、それを全部含めて楽しいと思える人、直感的にわくわくする人は、ぜひやった方が良いと思います。

「怖さ」が先に来てしまうのなら、成功体験の積み重ねが少し足りないのかもしれません。自分の中に心理的安全性があって、やれそうだと思える領域の中で良いので、挑戦してみては、と背中を押したいですね。