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ロボットを知り尽くした起業家が挑む、テクノロジー×マンパワーの新たな遠隔接客サービス
ロボットを知り尽くした起業家が挑む、テクノロジー×マンパワーの新たな遠隔接客サービス

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第12回は、遠隔接客サービス『RURA(ルーラ)』を提供するタイムリープ株式会社 代表取締役 望月亮輔氏にお話を伺いました。

【プロフィール】
タイムリープ株式会社 代表取締役 望月 亮輔(もちづき・りょうすけ)
1988年生まれ。大学卒業後大手通信会社、動画メディアのベンチャー企業を経て、起業。事業売却をおこない、以降スタートアップにて役員としてロボットメディアの編集長を務める。2019年に同社を退任してタイムリープを設立、現在に至る。

What's タイムリープ株式会社】
タイムリープは、「最も大切なことに時間を使える世の中を実現する」をビジョンに掲げ、遠隔接客サービス「RURA」を提供しています。世界中の社会人が、年間約2,000時間を仕事に費やしています。何百年もの間、それが当たり前のように。私達はテクノロジーの力で社会構造を変えることで、人類を労働から解放し、みんながそれぞれ自分にとって一番大切なことに時間を使うという選択肢を持った世の中を実現していきたいと考えています。

Portfolio


ロボットメディア立ち上げ、法人化、そして売却

望月様が起業を志したのはいつ頃からでしょうか。

学生時代からです。宇宙に行きたいという夢があって、宇宙飛行士になるのは難しくお金を貯めるほうが現実的だと思ったので(笑)起業を目指すようになりました。

動機がユニークですね! なぜ宇宙に惹かれたのですか?

まったく想像がつかないからだと思います。海外の場合、行ったことがなくても何となく想像がつきますが、宇宙は完全に未知なので。

大学卒業後、すぐに起業はせずに就職をされていますね。

その会社には経営者育成プログラムというものがあって、「3年以内に経営者になれる」と謳っていたんです。ただ、プログラムが途中で頓挫してしまったので、僕も会社を辞めて1ニートのような生活をしていました。

その後、起業家の動画を配信しているスタートアップに就職。ここでなら、起業家の方々との人脈を広げながら多くのことを学べると思ったからです。以前は、社長というとカリスマ性があって、ものすごいパワーで周囲を巻き込んでいく人しかなれないと思っていましたが、この会社で働いてみて、起業家にもいろんなタイプがいることを知りました。初めて「今の自分のままでもなれるかも」と思えましたね。

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その体験が起業を後押ししたのですね。独立してまずロボット情報メディアを立ち上げられていますが、なぜ「ロボット」を選んだのでしょうか。

1年半勤めた後に独立して、最初はWebサイト制作等を請け負っていたのですが、当時ちょうど発表されたのがソフトバンクのPepperでした。その時の孫正義さんの話にとても心が躍ったんです。家庭の中にロボットが本格的に入っていく未来にもワクワクしたし、すでに日本の産業用ロボットが世界で活躍していたので、日本発のビジネスとしてこれからさらに進化していくであろう未来にもワクワクしました。

そこでロボット系の情報収集を行なっていたのですが、当時あったロボット関連メディアは、理系向けの専門的な内容がほとんど。僕は大学も文系だったので、自分のような一般のビジネスマンでもわかるメディアがあったらいいのにと思っていました。そこで2014年に個人で『ロボットドットインフォ』(現:ロボスタ)というロボット情報メディアを立ち上げ、様々な場所に取材に出向いては記事を掲載するようになりました。

その後、法人化や、AI・ロボティクス事業を展開するロボットスタート株式会社にメディアを売却する等、状況が目まぐるしく変化していますね。

法人化はメディア立ち上げから半年後。売却は1年後くらいでした。ロボットスタート代表の中橋義博さんとは取材現場 で知り合い、「メディアを一緒に大きくしていきたい」と声をかけてもらいました。僕は経営の細かいノウハウを持っていなかったので、中橋さんから上場へのストーリーを見せてもらった時は、負けたような悔しい気持ちになりましたね。一緒に運営したほうが多くの人に役立つメディアになる。そう考えて事業売却を決め、ロボットスタートの取締役 兼 メディア編集長に就任しました。


AIの限界を知るからこそ生まれた、遠隔接客サービス『RURA

タイムリープを設立しようと考えた経緯をお聞かせください。

『ロボスタ』が日本最大級のロボットメディアに成長し、様々な情報が入ってくる立場になりましたが、ロボットによって代替がうまく進められていない領域がありました。それは「接客」です。

AIでの接客は、接客データが蓄積されればされるほど精度が上がっていきます。でも、最初にAIから接客を受けた時に見当違いな対応をされたり、うまく答えてもらえなかったりすると、人は「もういい」と諦めて話しかけなくなる。そのため接客データが全然溜まらないという課題があったのです。

Aと言われたらBと答える」というようなシナリオ型と呼ばれる接客の精度は、技術の進化とともに上がっていくでしょう。しかしながら、接客はそれだけでは成り立ちません。AIがお客さんの表情やちょっとした間を判断しながら接客できるようになるには、まだまだ時間がかかるというのが現状です。

そこから、テクノロジーと人間の接客をうまく組み合わせた遠隔接客サービス『RURA』が生まれたのですね。

はい。導入先企業のスタッフの方、もしくは弊社に所属する世界各国のRURAワーカーが、システムを通じて複数の店舗で遠隔接客を行うというサービスです。これにより接客の質を高く保ちながら、従来は時給1000円前後だったスタッフの人件費を、半分以下まで削減することが可能になります。

メリットは店舗側だけではありません。現代は飽食の時代なのに、仕事をしないと食べていけない状況というのはおかしい。テクノロジーやロボットが人間の労働を代わることで、僕たちは大切なことにもっと時間を費やせるようになると思うのです。そこで弊社では「最も大切なことに時間を使える世の中を実現する」というビジョンを掲げています。

今の社会では、上司が偉いし仕事のできる人が偉い。でも社会構造自体が変われば、活躍できる人が他にもたくさん出てくるはず。一人ひとりがやりたいことに打ち込めて、その人らしい活躍ができる世の中を、自分たちのサービスを通じて実現していきたいという想いがあります。

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20196月の会社設立から、1年後に『RURA』をリリースするまで、どんな道のりを歩んできたのでしょうか。

知り合いの社長が運営するコワーキングスペースで接客を体験させてもらいながらサービスモデルを考え、共同創業者の取締役と、今も社員として働いてくれているエンジニアと一緒に開発を進めました。実際に接客の現場に入ってみて、AIに完全に置き換わるまでにはまだ10年以上かかると改めて実感しましたね。

そもそも接客業務には、「個人情報を記入してもらって会員証を作成して渡す」といった手作業の部分が想像以上に多い。対面でしかできない作業を減らさないことには遠隔接客サービスは成り立たないので、まずは「個人情報はフォームから登録する」等のデジタル化の提案から行って、徐々にサービスをテスト導入していきました。

コロナ禍の真っ只中にリリースということで、反響は大きかったのではないでしょうか。

実は、このサービスの形が完成するまでステルスで行なうことを決めていたため、当初は外向けに情報を公開せずに進めようとしていました。そんな中でパンデミックが発生し、遠隔接客が注目され始めた。競合も現れ始めました。そこで急遽リリースする運びになったのです。

計画外でしたが、結果的に市場認知が進んだ感覚はあります。「スタッフひとりで複数店舗」という競合に対し、弊社のシステムは「複数スタッフで複数店舗」「20人で100店舗」対応できるという強みがありましたから、競合のサービスをきっかけに『RURA』を知って導入してくださる方も増えました。この1年で300社ほどからお問い合わせをいただいています。

お問い合わせや導入実績の多い業態はありますか?

コワーキングスペースやホテル、カラオケ等、受付のある業態にはフィットしている印象ですね。複合カフェの『スペースクリエイト 自遊空間』をはじめ、モデルハウスや歯科医院にも導入していただいています。これまでの4分の1の人数で運営できるようになった等、成果も上々です。

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資金調達を経て、事業・組織の拡大へ

20213月にシードラウンドで総額1.8億円の資金調達をされています。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

僕がまだロボットスタートの取締役だった頃、ロボット業界のイベントで登壇したのですが、そこにジャフコの清田さんがいらしていて名刺交換をしたんです。その後、タイムリープを設立するかしないかくらいのタイミングで、投資の相談というより事業へのフィードバックがほしくて僕から連絡しました。

ジャフコさんには投資前から様々な支援をいただきました。知り合いの起業家からも「ジャフコさんは手厚く支援してくれますよ」と聞いていた通り、僕個人の力では繋がれないような大手企業の上層部の方を見込み顧客として紹介いただいたり、営業同行でお客様の声を直接聞いていただいたり...。国内最大のVCから出資いただけることは、弊社にとって大きなパワーになる。そう確信して、資金調達に至りました。

現在はどんな支援を受けていますか?

キャピタリストの清田さん、高橋さんに担当いただき、定例ミーティングやファイナンスサポートを実施いただいています。様々な会社を見ているお二人ならではのご経験から、今後困りそうなことを先回りしてアラートしてくださることも多く、とても心強いです。

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望月氏(中央)、ジャフコ担当キャピタリストの髙橋イリア(左)、清田 怜(右)


資金調達を経て、今後はどのような事業展開を見据えていますか?

まずはより多くの企業、より多くの業種に使っていただきたいです。その上で、機能の拡充にも注力していきたい。従来、自社の接客データはどこにも蓄積されない状態だったので、自社のスタッフが1時間のうち何分接客しているかすら把握していない企業がほとんどです。『RURA』に蓄積されるデータを活用して、例えば「毎回聞かれることはAIで回答する」といったように、さらに効率的に接客できる機能を開発していきたいですね。

無人コンビニ等も増えてきていますが、実は無人化が進めば進むほど『RURA』が必要になるんです。何かトラブルが起きた時、『RURA』があれば店舗の様子を見てスタッフが能動的に声をかけ、遠隔でサポートすることができるからです。

対面接客がメインの店舗の効率化を担う一方で、無人化・AI化された店舗の足りない部分も補えるサービスなんですね。事業拡大に伴い、組織はどう拡大していくご予定でしょうか。

この事業で最も重要なポジションはカスタマーサクセス。『RURA』のメリットを最大限享受するには、導入するだけでなく使いこなしていただくことが大切です。成果が出れば自社の他店舗に横展開していただける可能性も高まります。ですので、直近ではカスタマーサクセスの採用を強化していく予定です。

ひとりより、仲間と起業するほうが断然楽しい

今、望月様のモチベーションが一番上がるのはどんな時ですか?

やはり、導入先のお客様から「接客効率が上がった」「遠隔で契約が取れた」等のいい声を聞けた時ですね。声だけでなく、お客様が『RURA』を使いこなしてくださっているかどうかはデータでわかるので、「2週間で2000回、遠隔接客をした」といった数値を見た時も嬉しくなります。本当にお客様の役に立っているのか悩む時もありますが、そうした成果を実感できると「もっと会社を成長させていこう」というモチベーションになりますね。

様々な分野でロボットはすでに人手がなくても問題なく稼働しています。接客に関しても、ゆくゆくは人が介在する必要が完全になくなる時代が来るかもしれません。その時には、「AIに仕事を奪われる」のではなく「AIが労働から解放してくれる」という考え方が浸透して、もともとその仕事をしていた人には別の形でお金が循環する仕組みができていてほしい。それが僕の理想とする、人間とロボットの共存社会です。

以前勤めていた会社で、起業家にも様々なタイプがいることを知ったとおっしゃっていましたが、ご自身はどんなタイプの起業家だと思いますか?

できないことが自分でわかっている起業家。僕の足りない部分は頼もしい社員たちが補ってくれているので、僕が会社を牽引しているというより、皆でフォローし合いながら一緒に会社を成長させていると思っています。

最後に、後輩起業家の方々にアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

皆さんにアドバイスできることは何もないので、起業した頃の自分へのアドバイスでもいいですか?(笑)。 1社目の時はひとりで起業したので、世界を広げようとしてもどうしても限界がありました。でも今は、自分にできないことはできる人に任せられるし、自分が誰かをサポートすることもできます。信頼できるいろんな仲間を見つけて皆でチャレンジするほうが、ひとりよりも可能性が広がるし断然楽しい。そう当時の自分に伝えたいですね。