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エネルギーマネジメントで、来たる電気自動車社会の安心を生み出す
エネルギーマネジメントで、来たる電気自動車社会の安心を生み出す

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。第9回は、株式会社REXEV 代表取締役社長の渡部健様に話を伺いました。


【プロフィール】
株式会社REXEV 代表取締役社長Co-founder 渡部 健(わたなべ・けん)
早稲田大学理工学部電気電子情報工学科卒業/同大学院理工学研究科電気工学(電力システム工学)修了(工学修士)一橋大学大学院国際企業戦略研究科(金融戦略・経営財務コース)修了(金融戦略MBA)九州大学グリーンテクノロジー研究教育センター客員教授/大阪市立大学大学院都市経営研究科非常勤講師

住友商事株式会社にて中東、アフリカ、欧州向けの電力関連商材貿易実務やプラント建設プロジェクト業務を担当した後、同社子会社の小売電気事業者であるサミットエナジー株式会社へ出向し、発電所の開発業務、電力需給管理業務や小売営業等を幅広く担当。その後、2009年に株式会社エナリスへ入社、執行役員 、取締役、常務取締役を歴任し、経営企画や新規事業開発等を担当。また、上場担当役員として2013年に東証マザーズ市場上場。2016年にKDDI株式会社との資本業務提携、2017年3月の定時株主総会にて取締役を退任し執行役員就任。2019年1月、株式会社REXEVを設立、代表取締役社長に就任。

【What's株式会社REXEV(レクシヴ)】
20191月創業。「全ての人が限界費用ゼロで移動できる持続可能な社会インフラの実現」をビジョンに、エネルギーマネジメントに必要となるシステム等の開発および提供を手掛ける。AIIoT・自動運転等の次世代技術を掛け合わせ、e-モビリティーに新たな付加価値を創造するとともに再生可能エネルギーの普及促進にも貢献し、地域・社会・世界の課題の解決を目指す。自社でも電気自動車(以下、EV)のバッテリーを用いた電力需給調整やEV特化型カーシェアリング『eemo(イーモ)』を、神奈川県小田原市を中心に運営している。202012月に、ジャフコをリードインベスターとして、シリーズ A で約 7.4 億円を調達。

Portfolio



見据えるのは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)100%の社会の実現

―まず、REXEVの事業内容について教えてください。

カーシェアリング事業会社と見られがちですが、主軸はエネルギーマネジメント事業です。今後、電気自動車(EV)への転換が起こったときに必要となるシステムのソリューション提供が、REXEVの本質的なミッションです。EV特化型のカーシェアリング『eemo(イーモ)』は、電気自動車をいかに増やすかを考えた上で進めている事業の一つです。カーシェアリング事業はタクシー、バス、レンタカーと数あるモビリティサービスの中の一つの事業・サービスであり、カーシェアリング事業だけをやっていくのであれば、ガソリン車も扱えばいいのではないかとなりますが、そうではありません。

電気自動車はまだまだ高価で、車種も少ない状態です。カーシェアリングサービスによるEVの利用体験を提供することで、車種の選択肢が出てきたときに「乗ってみようか」「買ってみようか」となる。そのために今から"電気自動車の体験を売る"ことが、EVカーシェアでやりたいことです。


―なるほど。REXEVのミッションであるエネルギーマネジメント事業とは具体的にどういう内容なのでしょう。

電気自動車の充電をうまく調整できるようになる、制御システムの開発や運営です。今後、電気自動車の市場が広がれば、個人用乗用車のほか、トラックやバス、法人の営業車両等、様々な車種・車両や用途が増えます。すると、今は顕在化していない問題が出てきます。その一つが、電気の使用に関する問題です。

例えば、今のままA社が自動車を100EV転換し、一気に100台同時に充電すると、電気使用量は跳ね上がります。数が増えてきたときに必要になるのが、エネルギーマネジメント技術なのです。太陽光では、コントロールが難しく、天候の変化により需要以上に発電してしまい、太陽光の受け入れ量を制限する必要がありました。再エネの固定価格買取制度(FIT)では、発電事業者が出力抑制に応じなければならない状況になってきています。とにかく建設することに重きを置いて進めたために、発電量の余剰をどうコントロールするかという問題にあとから対応しなくてはいけませんでした。

電気自動車でも、充電により電力不足に陥る等エネルギーマネジメント上の課題は想定できます。まだ市場が大きくなっていない今のうちから、調整できるシステムを作り電気自動車を増やしていった方が、社会コストはトータルで下がるでしょう。このテーマには社会的な意義がありますし、電力の調整やマネジメント事業に長く携わってきた経験、知識を生かしやすいと考えました。

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REXEVを創業されたとき、どんな社会を実現したいと考えたのでしょう。

「再エネをいかに増やせるか」は大事な観点でした。自然変動する太陽光や風力エネルギーをうまく調整するエネルギーマネジメントは、再エネ100%の世界の実現には欠かせません。再生可能エネルギーが増えれば、燃料費はかからなくなります。1を作っても100を作っても増分コストが増えない、経済学用語でいう「限界費用ゼロ」のエネルギーになります。そうなれば、電気を生み出すコストは再生可能エネルギーの方が安くなり、環境面でも経済面でもメリットは大きいでしょう。ガソリン車なら走るだけお金がかかりますが、再エネで生み出された電気ならばいくら充電しても0円。移動コストもどんどん下がり、ゆくゆくは、移動困難者や赤字交通等、地方の移動の課題解決に繋がっていきます。自動運転車等も出てきて、地域の社会課題の解決に役立てれば...と未来のシナリオを描いています。


―「再エネ100%の世界」の実現へ、課題意識を持ったきっかけは何でしたか。REXEV創業に至った経緯を教えてください。

学生時代は電力の小売自由化の研究をしており、仕事に繋がれば面白いなと商社に入りました。そこで変わらない電力の産業構造を目の当たりにし、スタートアップの方がスピード感をもって市場の活性化に繋げられるのでは...と、電力需給管理や電力取引を行うエナリスにジョインしました。課題意識を持った大きなきっかけは、東日本大震災です。電力自由化が一気に加速し、電力を取り巻く考え方が一変した出来事でした。加えて、気候変動の影響を身近に感じるようになり、環境問題に対して自分ができることといえばエネルギー領域だ...と考えが変わっていきました。

脱炭素社会へ動きが変わってきたのも、非常にインパクトが大きいと思います。産業革命以降、化石燃料で発展してきたものを辞めようという話ですから、次の新たな革命が起こるに近しいですよね。

これまでの革命は、エネルギー転換とともに起きてきました。石炭が生まれ、徒歩や馬だった移動手段が蒸気機関車になり、移動が変わり、人が回遊して生活範囲が広がっていった。大量生産が可能になったのもエネルギーの力です。次に石油が生まれると、内燃機関や自動車が誕生し、移動の自由度が広がりました。エネルギーは産業構造が変わる起爆剤となっているのです。

これまで、ガソリンという一次エネルギーと、電気という二次エネルギーは融合してきませんでした。しかし、電気自動車が広がればモビリティと電力の融合が進みます。電力の産業構造が変わりゆく中、再生可能エネルギーの普及で限界費用がゼロになる社会の実現へ。電気のエネルギーマネジメントで、次なるエネルギー革命の一翼を担いたいと考えました。

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REXEVが手がける電気自動車のエネルギーマネジメントシステムは、今どんな段階にありますか。

私たちが開発した制御システムは、すでに電気自動車の充電調整に対応しています。今後、電気自動車が普及すれば、街のいたるところに充電スポットが現れると予想されます。でも制御システムがなければ、充電器に繋げるたびに電気が流れてしまう。スマートフォンのように「充電器があったら差す」程度の気軽さで充電すれば、すぐに電力不足に陥るでしょう。REXEVのシステムは、制御信号を受け取れば充電をさせない仕組みを確立しています。

今後は、電気自動車の普及にそって、段階的に100台、1000台の調整を可能にする等、スケールに応じてシステム制御レベルを上げる必要があります。まだ市場が広がりを見せていないので、タイミングを見極めながら開発投資をしていきます。


―「電気自動車が走る未来」の期待と懸念とは?

電気自動車の与える産業構造へのインパクトは非常に大きいと思っています。資金さえあれば、参入できてしまうのが電気自動車。内燃機関を作るには高度な技術が必要だったので、これまで日本は勝てていました。でも、ファブレス(工場を持たない会社)でも作れるようになればGAFAや中国の参入も可能になります。あれだけの経済圏を持っている中国に対し、日本はどうするのか。答えはありません。

電気自動車は、「ガソリンから電気に変わった自動車」ではなく、動くスマートフォンという捉え方の方が発想として合っていると思います。Xperiaで健闘しているソニー製の電気自動車が走る可能性もあるのではないかと期待しています。



いいブレーキ役として、今後の伴走にも期待している

―ジャフコとの出会いのきっかけを教えてください。

ジャフコの沼田さんとは、前職のエナリスからの付き合いです。初めて会ったのは200910月ごろですね。当時から、たまに飲みながら「こんな事業をしたい」と構想を話していたんです。起業したら教えてくださいと軽く言われていたので、実際に起業してお声がけしました。シリーズBくらいから投資を検討してくれるかなと思っていたら、「シリーズAからやります」と。ジャフコさんには、アーリー期から投資するイメージを持っていなかったので驚きました。201911月から翌年にかけて実施したシリーズAラウンドにリードインベスターとして投資してもらいました。投資を受けるなら一番やりやすい人がいいと思っていたので、付き合いの長い沼田さんを選んだのは自然な流れでしたね。

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渡部氏とジャフコ担当キャピタリストの沼田朋子(左)



―前職のエナリスで上場を経験したことも大きかったのでしょうか。

そうですね。沼田さんとなら、なんとなく上場できるんじゃないかという気がしています(笑)。上場までの具体的なプロセスを一度経験しているので、どう動くか見通しを立てやすく、アドバイスもいただけます。

前職では、代表と沼田さんがよくバトルを繰り広げていました。よくよく話を聞いてみると、沼田さんの言っていることも分かるな...ということも多かった。言うべきことを、然るべきタイミングできちんと言い切る姿勢を間近で見ていたので、信頼感がありました。


―投資担当に求めるアドバイスとはどういったことでしょうか。

ブレーキ役であることは大事だと思います。起業家が持っているのは「アイデアと志」くらいですから、その実現に向けて、とかく最短で進みたがります。だからこそ、こっちの行き方の方がいいですよ、とこれまでの知見をもとに助言して、一度止まって考えるヒントを与えてくれる存在は貴重です。


―今後、IPOを含めREXEVはどう発展していきますか。

最短で2024年のIPOを目指します。電気自動車のマーケットも盛り上がっていく時期ですので、エネルギーマネジメント事業の市場も大きくなっていく。我々の価値が高まっていくと期待しています。

今の市場環境としては、電気自動車の社会的ニーズも高まり、補助金制度もあって事業拡大がしやすくなっています。ただ、電気自動車の車種は広がっておらず、複数のラインアップから選べる状況には達していません。REXEVとしての実績も足りず、エネルギーマネジメントのシステム開発経験者の人材獲得には依然として苦戦中...。まだまだ課題が多いですね。


2024年のIPOに向けて、ジャフコに期待することとは?

資金調達から営業先の紹介まで、十分サポートいただいているので、これ以上は望むべくもありません。これまで通り一緒に伴走していただければいいですね。


社会課題の解決にどう繋がるか。ストーリーを自分の言葉で語れることが大事

―起業家として、一貫して大事にしてきたことや信念はありますか。

心がけていることは、誠を尽くすこと。吉田松陰が残した名言の「至誠」ですね。名もない人たちが明治維新で世の中を変えたように、若い起業家たちが世の中を変えていく。社会を動かすのはスタートアップかもしれないと思っています。

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―最後に、起業家が持つべき志とは何か、起業家を目指す方へのメッセージやアドバイスをお願いします。

いかに社会課題の解決に繋がり、世の中のためになるか。大義は何か、という視点からビジネスを組み立てていくことが大事だと思います。自分の言葉で語れるストーリーがあるかが、成功確率を上げると思いますし、周りの人もついてくるでしょう。

電気自動車の領域では、市場が広がったときに実はいろんな問題が出てくるということが、世の中に知られていません。その情報格差こそがREXEVのアドバンテージではありますが、一方で啓蒙活動をしていく必要もあります。

電気自動車はガソリン車のように、購入して駐車場に置けばいいわけではありません。充電器をどうつけるか、配線をどうするのか、電気の容量をどうするのか、検討すべきことがたくさんあるんです。電気自動車の導入はそう簡単ではなく、REXEVがサポートをする意義は大きいでしょう。だからこそ、私たちはエネルギーマネジメントという付加価値をつけて、社会に貢献していく企業でありたいと思っています。