
様々な課題を乗り越えてきた経営者達に、経営者として大切にしている志や、事業を通じて実現したい想いを聞く「経営者の志」。
第2回は、株式会社キャリタス(旧・株式会社ディスコ)代表取締役社長の新留正朗氏に登場いただき、これからの事業の挑戦について話を伺いました。
※本記事は、2022年に取材した内容をもとに構成しています。2024年4月1日の社名変更に伴い、一部表記を「株式会社キャリタス」に更新しています。
株式会社キャリタス
代表取締役社長新留 正朗(にいどめ・まさろう)
同志社大学卒業。1987年に株式会社ディスコ(現・株式会社キャリタス)へ新卒で入社。大阪でキャリアをスタート。本社転勤後、営業部マネージャーを経て、リサーチ&マーケティング部長、採用広報事業部事業部長、IT推進部部長等の役職を務める。2010年に取締役就任、2016年10月より代表取締役社長に就任する。
【What's 株式会社キャリタス】
1973年に株式会社ディスコとして創業。人財に関わる情報やサービスを社会に提供し、「就職」と「進学」に関連したサービスを展開する。新卒者向けの就職情報サイト『キャリタス就活』を主軸に、企業の人材採用に関する採用広報活動の企画提案、コンサルティングからアウトソーシングまで手掛けるほか、高校生向けの『キャリタス進学』など学校の募集広報活動を支援する各種サービスも提供。また、留学生向けの就職イベント「ボストンキャリアフォーラム」は30年以上の歴史を誇る。コロナ禍でオンライン開催を余儀なくされていたが、2022年は3年ぶりに現地にて開催した。
学生と企業の最初の出会いを提供する

ーキャリタスの事業内容を教えてください。
新留 企業の新卒採用支援を中心に、様々な人材関連事業を展開しています。もともと日本経済新聞社との業務提携で『日経就職ガイド』という就職情報誌を発行しており、2015年に当社単独運営で、新卒学生のための就職情報サイト『キャリタス就活』をスタートしました。毎年、40万人の学生に利用いただいております。
その他では、『ボストンキャリアフォーラム』等の海外で開催している留学生採用イベントの運営、採用選考業務を受託するビジネスソリューション事業、進学・教育関連サービス等を通じて、「人」と「組織」の成長を支援させていただいています。
ー近年、新卒採用を支援するサービスの形は多様化していますが、メディアを主軸に据え続ける理由はありますか。
新留 社会に出た経験のない学生にとって、様々な情報を集めながら自分のやりたい仕事を探していくというプロセスは欠かせないもの。興味のある業種や企業をピンポイントで狙う学生も一部いますが、まずは幅広く情報収集してそこから絞っていく人が大半です。その「学生と企業の最初の出会い」を提供する就職情報メディアの存在価値は、今までもこれからも変わらないと考えています。
私たちの使命は、採用広報を通して、企業の魅力を最大限、学生へ伝え、入社後も安心して、やりがいを持って働いてもらうこと。掲載にあたっては、独自の掲載審査基準を設けています。また、日本経済新聞社と業務提携していた背景から、大手企業や金融機関との取引が多く、学生の間でも「『キャリタス就活』は大手や金融業界に強い」「掲載企業の質が高い」というイメージを持ってもらっています。
コロナ禍の逆境もオンライン化でスピーディに対応
ー2016年に社長に就任された当時の状況についてお聞かせください。
新留 当時は事業を多角化しすぎて業績が低迷していたため、まずは事業の整理と、主軸である就職情報メディア事業の再構築に取り組みました。本来、メディア事業は「木の幹」のような存在で、幹がしっかりして初めて周辺事業の「枝」が茂っていくもの。ただ当時は、メディア事業にこだわらず売上を第一に考えるようなカルチャーになりつつあり、会社として大事にすべき核の部分が揺らいでしまっていました。
そこで、今一度原点に立ち返るために、全社員と課題を共有して意識を変えていくところから始めました。毎年、顧客への提案が始まるタイミングで全国の営業担当向けに社内説明会を開くのですが、そこで私が先頭に立って、「皆でこの方向に進もう」というメッセージを直接伝え続けてきました。もちろん一朝一夕で変わったわけではありませんが、トップである私がブレずに取り組み続けてきたことで結果が数字として表れ始め、今やっと花開きつつある段階まで来ています。

ーコロナ禍では採用・就職活動のあり方が大きく変わりました。そこではどんな苦労がありましたか。
新留 売上・営業利益は共に回復して、「これから次のステージに向けて頑張ろう」という矢先にコロナ禍が直撃しました。ちょうど感染が拡大し始めた2020年2月は、就活の広報解禁を3月に控えた、企業選びをする上で重要なタイミングでした。就活イベントは学生にとってメディアと並ぶ重要な情報源。当社が主催する就活イベントを開催するか迷いましたが、企業の生の声を聞ける貴重な場を奪うことはあってはならないと判断し、細心の注意を払いながら敢行しました。
しかしその後、感染はさらに拡大し、3月以降は中止を余儀なくされ、企業側も説明会や面接をオンラインに移行しなければならない状況に。前例のない事態に試行錯誤しながらも、何とか短期間で企業の採用活動の支援体制を構築しました。
ー短期間でスピーディに対応できた要因は?
新留 企業向けに採用支援をしているビジネスソリューション事業部の存在が大きかったと思います。彼らは普段から企業の採用選考業務を担い、課題解決に取り組んでいるので、コロナ禍でも率先して情報収集や具体的な手法の確立に努めてくれました。その事例が社内でどんどん共有され、他の事業部にノウハウを提供していくことができた点が大きいです。その年の秋には、大学の学内合同説明会のオンライン運営を請け負えるまでになりました。
結果的に採用活動のオンライン化の波に乗ることができ、着実に受注を増やしていくことができました。コロナ禍での迅速な対応に加え、社内での部門同士の連携によるチームワークで、逆風を乗り越えてメディア事業の業績を向上させることができました。
こうした窮地では、トップ自らが「絶対に乗り越えられる」と信じて自分の信念を貫くことが何よりも大事。事業部長だった時代にも経営危機が何度かありましたが、強い想いと地道な行動で何とか乗り越えてきました。トップが諦めなければ皆も前を向いてついてきてくれることを、今回のコロナ禍でも改めて実感しましたね。
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キャリタス本社のカフェスペース
業界トップに立つという未来を信じ、真摯に提案してくれた
ー2022年10月にジャフコと資本提携し、新たなスタートを切りました。経緯をお聞かせいただけますか。
新留 資本提携を検討したきっかけは、「この会社のポテンシャルをまだ活かし切れていない」という想いです。当社には約50年の歴史があり、多くの大手企業から信頼をいただいているビジネスソリューション事業や、日本人留学生採用でトップクラスの実績を誇る『ボストンキャリアフォーラム』等、いくつもの強みを持っています。それにもかかわらず、最も注力したい新卒向け就職情報メディア事業でトップに位置する競合他社とは、掲載社数も売上も残念ながらまだ差があるのが現状です。
ただ、その競合も長年の努力の末に1位の座を勝ち取っています。当社もかつては『日経就職ガイド』で掲載社数トップになったことがあります。諦めることさえしなければ、私たちも『キャリタス就活』でトップに立てる可能性はあるはずです。
トップを目指す上での課題は主に2つ。Web開発やマーケティング等の人材を増員して、ITサービスの強化を図ること。同時に、経営管理体制をより強固なものにすること。これらを取引銀行に相談していたところ、選択肢のひとつとして「投資ファンドとの資本提携」をアドバイスいただいたんです。
ーその中でジャフコと出会い、どんな印象を抱きましたか。
新留 何社か検討する中で、当社顧問から紹介されたのがジャフコでした。初回面談では4名の方にお越しいただいたのですが、初回とは思えないほど当社のことを理解してくださっていて驚きました。
私たちの考えと全くズレていなかったんです。よくここまでご存知だなと。
ー最終的にジャフコを選んだ決め手をお聞かせください。
新留 やはり、私たちが求めていた条件をすべて満たし、当社を高く評価していただいた点です。業界のトップを目指していくという想いに共感してもらえない会社もあるなかで、ジャフコは当社がトップに立てると信じ、そのために必要なことを真摯に提案してくれました。1年以上かけて複数社とお会いしましたが、ファンドによって当社への評価も考え方も全く違い、比較検討できたことは結果的に良かったと感じています。
投資担当者さんらが終始本音で話をしてくれたので、私自身も腹を割って話すことができ、初回面談から資本提携までは3ヶ月という早さでした。社内では一部不安視する声もあったのですが、社員総会でジャフコの皆さんから提携の経緯や当社の可能性への想いを直接お話しいただいたことで、社員の理解はかなり進んだと感じています。
「人を信じる経営」をする
ージャフコと共に今後取り組んでいきたいことを教えてください。
新留 まず目指すのは、NPS(顧客ロイヤルティ)でのトップ。毎年、第三者機関に依頼している学生調査があるのですが、そこで「『キャリタス就活』を使って非常に満足した」「後輩にぜひおすすめしたい」と回答してもらえるような圧倒的な結果を出していきたい。その積み重ねが、掲載社数や登録者数の増加に繋がっていくと考えています。
そのためにも、来年度からは他社メディアが導入していないクチコミ機能を搭載して、先輩の就活体験談等を掲載していく予定。ジャフコには様々な会社をご紹介いただき、サイトリニューアルにあたって必要なWebマーケティングの強化を進めているところです。
また、CxOをはじめとした人材採用や、人事制度の整備等にも取り組み始めています。投資担当者さんらの対応が非常にクイックなので、今後の成長に向けてスピード感を持って動けているという実感がありますね。
ー歴史ある会社を守り、進化させていくという重責の中で、新留様のモチベーションの源になっているものは何でしょうか。
新留 キャリタスに入社して35年が経ちますが、私はこの会社のポテンシャルを信じているし、社員の皆が頑張っていることも知っています。私自身、営業出身なので、お客様から「キャリタスにお願いして良かった」と言われることがどれだけ嬉しいかも知っています。だから私は、この会社のポテンシャルを最大限に引き出し、世の中から正しく評価されるようにしたいと思っています。今は会社がひとつにまとまりやすくなっている時期なので、このタイミングで成長の基盤を固めて、次世代の経営陣へ引き継ぐことが私の使命だと考えています。

ー最後に、経営者として大切にしている志を教えてください。
新留 「人を信じる経営」をしたいです。変化の少ない時代はカリスマ経営者のような存在がいても良いと思いますが、今のように変化の目まぐるしい時代は、一人の人間の能力に依存するよりも、社員500人の知恵と経験を活かして経営したほうが絶対にうまくいきます。いかに500人の知恵と経験を集約して、その中からベストな選択をするか。選択したら軸はブラさず、いかに皆をひとつの方向に持っていくか。それが経営者の仕事だと私は思っています。