投資先支援のリアル

上場は「通過点」。投資先の価値向上を目指すバックオフィス支援の裏側

#バックオフィス支援

成長できる組織に欠かせない「管理体制」。

普段、人は華やかな表舞台に目を向けがちなものですが、その舞台を支える基礎が弱ければ、たとえ業界に変革を巻き起こすテクノロジーがあったとしても、その効果を発揮できないままに終わってしまうことも少なくありません。

また、スタートアップは事業の成長を第一に考えるあまり、管理体制の強化になかなか手が回らない現状もあります。
今回はジャフコの取り組みである「バックオフィス支援」について、支援チームの形野英智、瀬戸山広樹、清宮悠太が、機能面やスタンスなどについてお話します。

【プロフィール】

ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部
形野 英智(かたの・えいち)
会計事務所勤務6年、税理士資格取得後1991年JAFCOに入社し、現在まで一貫して投資先の上場準備支援を中心に従事。資本政策やEXITスキームの立案等投資部門のサポートも行う。

ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 
瀬戸山 広樹(せとやま・ひろき)
2020年にJAFCO入社。前職はEY新日本有限責任監査法人で監査業務のみならずIPO統括部署にてIPO品質管理業務に従事。また、日本取引所自主規制法人の上場審査部への出向経験を持つ。現在は、投資先の企業価値向上のため、バックオフィス構築支援や上場準備支援、投資部門のサポート等を行っている。公認会計士、日本公認会計士協会東京会IPO関連業務支援PT構成員

ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部
清宮 悠太(せいみや・ゆうた)

2024年にJAFCO入社。入社以前は、大手監査法人にて、幅広い業種のクライアントに対する会計監査、ショートレビュー、IPOアドバイザリー業務に従事するとともに、書籍の執筆・会計専門誌への記事寄稿・研修やセミナーへの登壇などナレッジ発信活動に取り組む。また、日本取引所自主規制法人への出向時には、東京証券取引所への上場申請会社に対する上場審査を担当。現在は、主に投資先企業に対するバックオフィス構築やIPO準備支援を担当。公認会計士。

バックオフィスは企業成長の「基盤」。管理体制づくりからIPO準備などを伴走

成長するためには強い「管理体制」が重要

─まずは、バックオフィス支援チームで行っている支援の概要について教えてください。

ビジネスディベロップメント部 形野 英智

形野 一般的にバックオフィス支援というと「上場準備をしている」と思われることがありますが、そもそもバックオフィスは上場する・しないに関わらず、企業が成長する上で本来必要となるものです。私たちは、上場申請書類の作成やガバナンスや内部管理体制の構築づくりを投資先と一緒に進めますが、その本質は、「投資先企業の成長に向けた基盤づくり」を行っています。

瀬戸山 支援内容を大きく分けると、シード・アーリー期に行う「バックオフィス立上げ」とミドル・レイター期に行う「上場準備」の、大きく2つに分けられます。

上場はあくまで通過点。企業価値を上げるために必要なことを支援する

─では、それぞれの支援内容について教えてください。

ビジネスディベロップメント部 瀬戸山 広樹

瀬戸山 まず、バックオフィスの立上げ時期においては、「仕組み」の構築のサポートを実施しています。具体的には、経営判断をタイムリーに実施できるように月次算等の早期化に向けた業務フローの構築や管理会計の構築のサポートを実施しています。

このフェーズにおいては、事業基盤収益基盤が確立していない中で事業を進捗させる必要があることから、現状の経営状況等をタイムリーに把握した上で進むべき方向性を意思決定できるように、その土台作り(=仕組み作り)をサポートしています。

─続いて上場準備についても具体的な支援内容を教えてください。

瀬戸山 上場準備は、主に上場までを段階ごとに分け、それぞれに応じたサポートを行います。

例えば、N-3期においては、監査法人との監査契約締結に向けて、監査法人が契約前に求める内部管理体制の構築のサポートを実施したり、または監査法人のショートレビュー対応のサポートを実施したりしています。

準備が本格化するN-2期以降は、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーになるための、ガバナンス・内部管理体制の構築サポートを実施し、投資先のIPOに向けた支援を実施しています。

N-1期以降に実施される証券審査・東証審査では、審査対応のサポートを実施しています。なお、N-1期以降は、投資先企業自らが対応する必要があるフェーズであることから、基本的には、あくまでも困ったときにサポートするといったスタンスとなります。

形野 その他にも過去に携わった事例として、投資先企業の経理担当者や人事担当、そしてジャフコのHR支援チームと連携してCFO採用の一次面接まで担当したこともあります。

─投資先企業をサポートする上で、どんなことを意識していますか?

瀬戸山 そうですね。ガバナンス・内部管理体制を構築する際に、教科書的なアドバイス等は実施せず、その投資先企業の状況に応じた"実効性のある"ガバナンス・内部管理体制を構築いただくようなサポートを実施するように意識しています。

結局、ビジネスを行っていく上で起こりうるリスクは投資先企業によって様々であるため、その投資先企業の状況に応じたガバナンス・内部管理体制を構築していかないと、結果的に「絵に描いた餅」になってしまう可能性がありますからね。

─投資先企業とはどのような頻度、深さで関わりを持っているのでしょうか?

形野 例えば、まだそれほどご相談事項が多くない状況であれば月に1度の定例会議で状況をうかがったり、上場準備を本格的に始められるフェーズになれば、毎週進捗をご確認して遅れている部分のサポートを行ったりとさまざまです。
投資先企業の置かれている状況によって求められる支援もさまざまなため、お困りごとやニーズに合わせた形で関わっていますね。

瀬戸山 我々は上場後もサポートできる立場ではありませんので、投資先企業自ら業務や体制の運用をしていただく必要があり、その実現に向けたサポートを実施することが前提ではありますが、一つの通過点であるIPOというハードルを乗り越えることはなかなか難しいのも事実ではあるため、投資先の状況に応じてサポートを実施しています。

世の中の変化に合わせて支援体制も「進化」し続けてきたジャフコのバックオフィス支援

創業以来から続く支援の実績から、バックオフィス専門チームを組織

─ジャフコにおけるバックオフィス支援の歩みについて教えてください。

形野 現在の体制は、ジャフコが1990年前後から上場準備の一環として行っていたバックオフィス支援がもとになっています。その後、子会社化して投資先に限らず様々な企業の上場準備、人材紹介・派遣などを行っていましたが、2010年に再びインハウス化しました。

投資先の支援に特化して再出発を切るとともに、もとは別であった営業支援、投資先調査、HRの機能と合わさり、「BD(ビジネスディベロップメント)」として今に至ります。

─投資先支援をインハウス化したことで、どのような変化が生まれましたか?

形野 それまでは「有料で支援を提供する」という形態だったため、支援内容も契約で決めたものを中心に対応していました。しかし、上場を目指すなかで想定外の出来事や思わぬアクシデントはつきものです。インハウス化したことで、企業が困ったときに柔軟に対応できたり、気軽に相談に応じることができたりと、密度の濃い支援が可能になりました。

支援の「形」は変わったかもしれませんが、バックオフィス支援を専門チームで提供し続けていることは、他のVCと比べた際の、私たちジャフコの強みだと思っています。

投資方針は変われど、支援スタイルはずっと変わらず「起業家へのリスペクト」を

─変化といえば、ジャフコは投資方針を以前の「分散投資」から、2010年前後に「厳選集中投資」に舵を切っています。バックオフィス支援のあり方にもその影響はありましたか?

形野 いえ、「起業家へのリスペクト」という根本の考えはずっと変わらずにいます。例えば、起業家と意見が食い違ったときに「こうあるべきだ」「ここまでしかできません」のように上から目線で考えを押し付けるのではなく、目指しているゴールはどこで、何が必要なのかを話し合いながら、お互いに信頼感を持って進めることを大切にしています。

現在のジャフコは、シード・アーリーステージのスタートアップを中心に投資を進めています。スタートアップは事業の成長の優先度が高く、管理体制の強化になかなか手が回らない現状もあります。だからこそ、私たちバックオフィス支援チームとの「連携」によって、強い管理体制の構築を支援できるのではないかと思いますね。

瀬戸山 むしろ「厳選集中投資」に移り変わったことで投資先企業一社一社との関わり方の濃度は高まりつつあるのでは、と思います。ジャフコがこれまで培ってきたバックオフィス支援の知見を活用することで、起業家の皆さんが事業に専念でき、その結果として事業が成長し、IPOを実現し、IPOを通過点としてさらに事業が成長する、といった過程を歩んでいただきたいと思っています。

ー清宮さんは、2024年に監査法人からJAFCOにキャリア入社されました。上場準備をする企業と向き合う立場が変化し、感じていることはありますか?

ビジネスディベロップメント部 清宮 悠太

清宮 前職の時と比べると、今は、より早いステージの企業と接点を持たせて頂く機会が増えました。こうした企業のバックオフィス体制は、最低限の人数で対応しているケースも少なくありません。

仮にバックオフィス体制が不十分な場合、営業・ビジネス部門を支える力が弱くなり、力強い成長が実現できなくなってしまうことや、本来防げたはずの法令違反・トラブル・損失などが発生し、事業推進の思わぬブレーキになってしまうこともあります。特にステージが早い会社では、このような問題が発生してしまうと、企業規模が小さいため、会社へ与えるインパクトも大きくなってしまいます。

将来に向けて十分な事業基盤・収益基盤を確立していくためにも、早いタイミングから適切なバックオフィス体制を構築に取り組むことが重要、ということは、前職でも感じていた点ですが、ジャフコに入社し、スタートアップ企業との接点が増えた中でも改めて感じている点です。

経験豊富な協力者とともに、幅広い投資先支援を行える組織へ

ジャフコに蓄積されたナレッジを、投資先へさらに還元

─これまでの歩みを踏まえて、バックオフィス支援の「これから」を教えてください。

瀬戸山 現在は人数がそこまで多くないため、上場直前期の企業を中心に支援を行っていますが、今後はより多くの投資先に対して深くサポートできるよう、体制の充実を進めています。

特にシード・アーリーステージはリソースが不足しているのが現状であることから、ジャフコの協力者とタッグを組みながら、多くの投資先企業に対してのサポート体制を充実させ、オペレーションのサポートと仕組づくりのサポートを実施していきたいと思っています。

具体的には大手BPOと連携してバックオフィス人材のクラウドワーカーを投資先につなげる取り組みを開始しています。また、スタートアップのバックオフィス業務に関心を持つ人材との接点を広げる活動や、実際のスタートアップでの業務とのギャップを埋めるために、スタートアップ業務を疑似体験できる場の提供にも挑戦しています。こうした取組みにおいて、当社が旗振り役となることで、監査法人や他のVC、各分野の専門家にも参画いただき、バックオフィスの組織づくりに課題を抱える投資先やスタートアップへの支援を、より一層充実させていきたいと考えています。

形野 そもそもバックオフィス業務は知見が属人化されやすく、非効率的になりやすいもので、「何から手をつけたら良いのか」というお声も耳にします。

ジャフコにはこれまでさまざまな投資先企業をご支援してきた経験があり、4,200社以上(うち上場社数1,000社以上)に及ぶ事例を知っています。もちろん、そのすべてが順調に上場したわけではなく、様々な難題もありました。だからこそ、うまくいったこと、いかなかったことの両方の知見を生かした "OJT" の観点で、人材育成にも貢献していきたいと考えています。

清宮 ジャフコでは、投資先の個別サポートのほか、投資先に向けた勉強会も開催しています。IPOでは非常に幅広い分野の知識・知見が求められますが、取引所、証券会社、金融機関、監査法人など、IPO分野に精通した関係者・専門家をお招きし、投資先の方々の参考になるよう、基本的な内容から最近の事例・トレンドなどをテーマとしてお話し頂く機会を設けています。勉強会にリアル参加頂く場合には、同じIPOを目標とする投資先企業の方同士が接点を持つ機会として活用頂くこともあります。

─ありがとうございます。それでは最後に、ジャフコへの資金調達を検討されている起業家の方々に向けてメッセージをお願いします。

瀬戸山 事業の現状をしっかりと把握するためにも、事業基盤・収益基盤を確立していくためにも、バックオフィス体制構築は必須のものとなります。とはいえ、過度な体制構築は必要なく、事業を進捗させることを意識し、その会社のフェーズや状況にマッチした体制構築が重要となるため、会社の状況等を踏まえた適切な体制をご一緒に構築していきましょう、とお伝えできればと思っています。

清宮 投資実行後は、ジャフコは同じ船に乗る仲間です。キャピタリストだけでなく、我々のようなサポートメンバーも一丸となり、企業価値の向上に向けて、さまざまな課題をともに乗り越えていければと考えています。

形野 ジャフコは投資を「スタート地点」だと考えています。企業成長のために必要なことなら何でもするというスタンスを持っていますから、少しでも困ったことや悩むことがあればジャフコを使っていただきたいと思います。