投資先インタビュー

稀有な独立系検査ゲージメーカーの挑戦:高効率化で製造現場を支えるものづくり

#資本提携

様々な課題を乗り越えてきた経営者達に、経営者として大切にしている志や、事業を通じて実現したい想いを聞く「経営者の志」。

第4回は、株式会社ネイブ 代表取締役の益隆司氏に登場いただき、投資担当者の砂山竜大からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

株式会社ネイブ

代表取締役

益 隆司(ます・たかし)

広告代理店や店舗設計施工会社、バックパッカーでのヨーロッパ周遊を経て、フリーランスの店舗デザイナー・グラフィックデザイナーに転向。その後、株式会社五鈴精工硝子に入社し、品質改善・コスト低減への取り組み、工場移設統括責任者、香港工場総経理に従事。SCM(サプライチェーンマネジメント)統括部長として組織再編・原価交渉を推進し、業績黒字化に貢献した実績も持つ。2025年1月より株式会社ネイブに参画し、6月に代表取締役COO、8月に代表取締役社長に就任。

【What’s 株式会社ネイブ】

1990年創業、石川県加賀市に本社を置く企業。自動車部品の測定に用いられる「検査ゲージ」の製造販売を行う。設計・溶接・樹脂加工・金属加工・組み立てなどの全工程を自社で内製しており、短納期・低コスト・高品質での製品提供と極めて高い営業利益率が強み。同業他社のほとんどが自動車メーカー系列企業である中、独立系企業として国内自動車メーカー全社と取引している。

Portfolio

株式会社ネイブ

どこの系列にも属さない業界では稀有な “独立系”検査ゲージメーカー

ーネイブが手がける「自動車部品検査ゲージ」の製造販売事業について、概要と強みを教えてください。

益 検査ゲージというのは、自動車部品が設計図通りに作られているかを正確に測定するための器具です。自動車製造に欠かせないものであり、自動車メーカー各社が系列の検査ゲージメーカーを有しているのですが、当社は稀有な独立系企業として国内の全自動車メーカーと取引しています。

自動車部品は部品ごとに形状が異なるため、検査ゲージも「多品種一品生産」。その数おおよそ3万種にも及ぶと言われています。

ひとつの製品を完成させるまでには多くの工程を要し、かつそれぞれに高度な職人技も求められるので、通常は検査ゲージメーカーから部材や加工ごとに2次請け・3次請けへと外注されます。一方で当社はその全工程を内製化しており、短納期・低コストで品質も優れた製品をお客様へご提供できている。その点は他社にはない当社ならではの強みです。

ーその強みは、1990年の創業以来どのように確立されていったのでしょうか。

益 当社の創業者は元農家で、機械を1台導入して様々な加工を始めたことがネイブの原点だったと聞いています。検査ゲージを扱うようになったのは、ある自動車メーカーの系列企業の下請けの1社として仕事を受けたことがきっかけ。加賀市は自動車メーカーの城下町でも何でもなく、近くに同業もいないので、自分たちで全工程を担わなければいけなかった。そんな状況からスタートしたものですから、各工程の技術が自然と社内に蓄積され、クライアントが求める納期遵守や低コストなどの要望にも応えられるようになっていきました。それが信頼につながり、自動車メーカーと直接取引できるまでに成長したという経緯です。

ー全工程を内製するとなると、工程管理の徹底が必要になってくると思いますが、納期や品質を守るためにどのような工夫をされていますか。

益 当社では自社開発の情報管理システム『NACs』を導入しています。受注生産情報を一元管理してリアルタイムに社内共有する体制が整っているため、煩雑な生産工程であっても生産効率を高め、納期や品質を遵守することが可能となっています。

『NACs』は、2006年に2代目である前社長がトップになった後、経営改革の一環として導入されたもの。当時は紙で工程を管理していて、どんどん増える受注に生産が追いつかない状況でした。

そこで課題を解決するために社員がオリジナルの管理システムを開発してくれました。

これにより生産効率が飛躍的に向上し、他社が納期の都合で断った案件も次々と請け負うことができたんです。そこから現場に合わせてアップデートを重ねて、現在も重要な基幹システムとして運用されています。

ジャフコとの資本提携を機に、「会社の未来への期待感」が社員間で高まった

ーネイブは2024年12月にジャフコと資本提携し、益さんは2025年1月にネイブ参画、6月からは代表取締役を務めていらっしゃいます。どのような経緯から参画することになったのでしょう。

益 私は以前、光学ガラスフィルターや成型レンズなどを作るメーカーに勤めていたのですが、その会社がジャフコと資本提携し、投資担当の砂山さんが経営に参画されることになりました。砂山さんとはその頃からの付き合いですね。その後、ネイブという会社で経営チームの一人になってほしいと相談をいただき、今に至ります。

砂山 ジャフコは2023年に仲介会社からの紹介でネイブの前社長と初めてお会いし、様々な事情で事業譲渡を検討されているという相談を受けたのですが、そのときに次の経営陣の一人として真っ先に思い浮かべたのが益さんでした。益さんは以前の投資先の光学ガラス部品メーカーのナンバー2でいらっしゃって、一緒に経営をさせていただいていましたが、「この方は経営者に向いている資質を持った方だな」と当時も思っていたんです。

ネイブから相談を受けたとき、益さんはもうその会社を退職されていたので、すぐにお声がけさせていただきました。最初は経営会議メンバーの一人として参画いただいていて、その前後で相応数の社長候補者とも面談させていただきましたが、益さん以上に社長に適任の方がおらず、業務理解や前社長からの業務引継ぎ、現場理解も益さんが一番進んでおられたため、そのまま社長に就任いただくことになりました。

ー益さんがネイブの新社長に相応しいと思ったのはどんな理由からですか。

砂山 まずはお人柄ですね。初対面の人にも壁を感じさせない取っつきやすさと、人が言いにくいことも、誰かを傷つけることなく的確に発言できる力は、以前からすごいなと思っていました。

前の会社でも「益さんは人の心を鷲掴みにしていく人」という声を社員からよく聞いていたくらいです。ネイブの前社長が「うちにはクセのある様々なタイプの社員が集まっている」と仰っていたので、キャパシティや人間力のある経営者が合うんだろうなと思っていたのですが、人心掌握に長けている益さんなら安心だなと。

事業内容に関しても、光学ガラス部品と検査ゲージでは製品自体は違いますが、ものを作って売って利益を出すというメーカーとしての事業構造は共通しています。

以前の会社は「ガラス素材を作る」事業と「仕入れたガラスをレンズに加工する」事業の2本柱で、益さんはそのSCM(サプライチェーンマネジメント)統括部長としてサプライチェーン全体を見ておられましたので、ネイブのものづくりとリンクする部分も大いにある。事業内容、事業規模、企業文化、それぞれとのマッチ度を総合的に見て、益さんが適していると判断しました。

ー益さんはいかがでしょう。ご自身の経験や志向がネイブにマッチすると感じましたか。

益 そうですね。私自身はどちらかと言うと、店舗設計をしていた頃の経験とネイブの生産工程を重ねていました。

自分が設計・デザインしたものを大工さんや家具屋さんや建材屋さんに発注して管理するという仕事だったのですが、土台から上積みを作っていって家具を収めて店舗に仕上げるという一連の流れが、ネイブの工程とすごく似ているんです。前工程がこういう失敗をすると、次工程がこんなふうに困る…といったことも理解していましたしね。

あとは物流管理や人材管理も前職で経験していましたから、今はそれらの経験をうまく活かせていると思います。

ーネイブの経営はいわばキャリアの集大成なんですね。参画後に見えてきた課題や、新たに取り組んだことはありますか。

益 各工程の専門性が高く、さらに『NACs』で工程ごとにきっちり管理されているため、当初は自分の担当以外の工程に対する理解が十分とは言えない状態でした。会社全体での技術の共通化もあまりなされていなかった。それがなぜ良くないかと言うと、応用がきかないんです。

例えば、国内で使う検査ゲージの主な材料は樹脂ですが、海外では金属が主流。海外向けの製品を作る場合は金属の設計方法や加工方法で作らなければいけませんが、みんな自分の工程のノウハウしか持ち合わせていないので、新しい技術への対応がなかなか難しい。そのため、前社長の時代は海外との取引を控えざるを得ませんでした。

その状況を打開すべく、私が代表取締役社長に就任後は組織替えを実施。工程間でコミュニケーションを取りやすいような体制にして、技術や課題をみんなで共有できるようにしました。その途端、各所から活発に意見が出るようになりましたね。もともと「自分の仕事は何が何でもやり切る」という熱量の高い社員が集まっている会社なので、今は全社員で試行錯誤しながら新しい技術に取り組んでいるところです。

ー現場の皆さんの中にも課題意識があったということですね。

益 そうだと思います。変わりたかったんでしょうね。

砂山 長く固定的な体制が続くとどうしても革新的なことが生まれづらくなってしまいがちですが、今回の資本提携と益さんの新社長就任という大きな転機が訪れた。社員の皆さんも「今後この会社はもっと良くなるかもしれない」「もっと成長できるかもしれない」という期待を感じてくれたはずで、だからこそ今、こんなにも活発に意見が交わされているんだと思います。もともと素晴らしい技術や製品を持っている会社なので、そこに現場の連携が加われば今後は伸びシロしかないなと。ジャフコが資本参加した意味はまさにそこにあると思っています。

益 私は砂山さんと長い付き合いということもあって、言いたいことや望んでいることがだいたいわかるんです。考え方も似ていますし、パートナーとしてすごく信頼感がある。一方で、社員たちはまだ砂山さんに慣れていない部分があるので、それが今の社内のいい緊張感になっている気がしますね。

ー資本提携後、ジャフコからはどんな支援を行ってきましたか。

砂山 まずは前社長の業務を益さんに引き継いでもらい、その過程で半自動化システムを入れるなど業務環境の改善をサポートしました。あとは、管理部長の採用など財務面の座組みを整えたり、リファラル採用の仕組みを導入したり。

私はいつも投資先にリファラル採用を取り入れるのですが、ネイブの皆さんは積極的に知人を紹介してくれて、短期間のうちに3人ほど採用することができました。それだけ自信を持って周りに勧められる会社だということですよね。

益 世間一般には知られにくい事業なので、地元でも認知度が高い会社ではないのですが、入社希望の方が面接に来られた際に工場見学をしていただくとすごく興味を持ってもらえるんです。

全ての工程が社内に揃っていますから、自分に刺さるポジションが必ずと言っていいほど見つかるんですよね。業績はずっと好調なのでボーナスも年4回支給していますし、ものづくりに興味がある方なら魅力を感じていただける会社だと思っています。

自社の強みを最大限に活かし、海外市場やオープンイノベーションに挑む

ーこれからのネイブのビジョンをお聞かせください。

 砂山さんの前で言うことじゃないかもしれませんが、私はビジョンというものをあまり掲げないタイプなんです。目標は変わるものだし、さらにその上を目指すことだってある。だから長期的なビジョンより、目の前のやりたいことを全部やるというスタンスを大事にしています。

それで言うと、先ほど話題に出た海外向け製品はこれから強化したいですね。現在、直接取引しているのはマレーシアで、間接的には北米やインドとも取引があるのですが、海外からの受注はもっと拡大していきたいと考えています。製品ラインの拡張も今まさに注力し始めているところ。検査ゲージだけではなく、部品の組み付けに必要な治具まで製作してセットで提供する事業を推進しています。

あとはオープンイノベーション。自社で開発部門を強化するよりは、スタートアップの皆さんと組んで自社の強みを活かしていく形が理想だと考えていて、最近では農業設備関係のスタートアップの方とお話をさせていただく機会もありました。自動車以外の領域に挑戦するチャンスがあるならぜひ大事にしたいと思っています。

ー「こんな社会を作りたい」など、経営者として実現していきたいことはありますか。

 製造業のイメージを向上させたいという思いはずっとありますね。特に当社が位置するのは地方都市なので、若い力を誘致していくためには「ものづくりに携わる仕事は楽しい」というイメージをもっと醸成していく必要があると感じています。当社にはものづくりのあらゆる工程を経験できる環境があって、技術を極めていくことも、この先新しい領域にチャレンジしていくこともできる。その上、頑張りはきちんと還元される。そういった当社の強みを世の中に知ってもらうことで、日本の製造業全体が元気になっていけば嬉しいですね。

担当者:砂山竜大からのコメント

自動車産業は激動の時代に突入していますが、長く世界のものづくりをリードしてきている国内自動車業界でネイブが磨いてきたものづくりのシステムは非常に秀逸です。投資先としても多くのメーカーに携わってきた自分としても感心する部分が多く、創業者や前社長のつくりあげてきた文化を感じます。そして、そのシステムを支えているのが従業員の真摯さ・粘り強さです(北陸人の特徴かもしれません、偶然ですが私も石川県出身なんです!)。そこに益さんが巻き起こす新しい推進力が加わることで、他社では到達できない水準のものづくり企業の高みに一緒に登っていきたいと考えています。