起業家インタビュー

「AI×人材」領域で社会を前進させる。創業初日のピボットを経て、顧客の課題に根差したAIスタートアップへ

#バックオフィス支援

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。

第51回は、株式会社フォワード 代表取締役の名古屋考平氏に登場いただき、担当キャピタリスト長島昭からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

株式会社フォワード

代表取締役

名古屋 考平(なごや・こうへい)

早稲田大学商学部卒業後、2012年に株式会社電通に入社し、メディア局にて3年、クリエイティブ局にて3年勤務。その後、2018年に株式会社クリーマへ転職し、マーケティング、プロダクト領域の担当執行役員として2020年にIPOを実現。2023年3月に株式会社フォワードを創業。

【What’s 株式会社フォワード】

「世界中の才能を、解き放て」をミッションに掲げ、AI×人材領域のサービスを提供。『エースジョブ』は、ダイレクトスカウトをはじめとする採用業務の効果・効率を生成AIで劇的に改善する採用支援SaaS。2024年10月の正式リリース以来、業種や新卒・中途採用を問わず100社以上の企業に導入が進んでいる(2025年5月時点)。

Portfolio

株式会社フォワード

採用支援SaaS『エースジョブ』で、業務工数80%減、スカウト返信数200%を可能に

ー採用支援SaaS『エースジョブ』のサービス内容を教えてください。

名古屋 企業が人材を採用する際、求めているスキルや経験を持つ求職者に「スカウト」を配信して選考に来ていただくという方法があります。希望の人材にダイレクトにアプローチできるため近年増えている手段ですが、配信対象者の選定、スカウト文の作成、配信などを全て人の手でやろうとすると、採用担当者に大きな負担がかかってしまいます。

『エースジョブ』は、そうしたスカウト業務をはじめとする採用業務を生成AIで支援するサービスです。顧客が求める求職者をリサーチし、AIが自社の求人にマッチする求職者をスクリーニングし、一人ひとりに合わせたフルカスタマイズのスカウト文を作成してくれます。『エースジョブ』を導入いただいた企業からは、「採用業務工数が80%以上削減された」「ほしい人がとれた」「エースジョブなしでは生きていけない」、など嬉しい声も届いており、大幅な業務効率化が期待できます。

ーAIがスカウト業務を支援することで、業務効率だけでなく採用の成果も高まるのでしょうか。

名古屋 はい。スカウトの返信数はテンプレートでの送付と比較すると平均200%に高まっています。求職者情報と求人情報を掛け合わせ、「なぜあなたをスカウトしたのか」「なぜこの仕事に適していると考えるか」などを、候補者のキャリア志向にあわせて具体的に言語化してくれるので、訴求力が格段に上がるんです。もちろん企業側で文面をアレンジしたり、配信する・しないを判断したりすることも可能です。

また、配信した人・しなかった人の違いをAIが言語化し、求職者のスクリーニング時に表示される「マッチ度」に反映していく仕組みも好評をいただいています。RPO(採用代行)サービスは「自社のことをどれだけ理解してくれているか」が重視されるので、その精度をAIでさらに高めていけるように現在も実装を進めています。

スカウト文は、求職者と企業の最初の接点。第一印象がいいとその先の選考もスムーズに進む傾向にあるため、『エースジョブ』導入により内定率や内定承諾率がアップしたという成果も出ています。

ー導入実績は100社以上に及ぶとのことですが、企業規模や導入理由はどのようなケースが多いですか。

名古屋 企業規模は10人から数千人まで様々ですが、最も成果が出やすいのは、事業がどんどん拡大していて採用ニーズの高い50~200人規模の成長企業ですね。そうした企業は、事業成長に人員拡大が追いつかず採用ができていない、スカウト業務に手間をかけられず返信率が低い、といった課題をお持ちです。『エースジョブ』導入だけでなく、スカウト運営体制の立ち上げや採用活動全般を支援させていただくケースもあります。

エースジョブのデモ画面

ー名古屋さんが起業を考え始めたきっかけについてお聞かせください。

名古屋 最初のきっかけは高校時代。野球部でキャプテンを務めていたとき、自分で会社を経営されている野球部OBの方が監督として来ていて、チームマネジメントのノウハウや将来のビジネスへの活かし方を教えてくださったんです。その影響で起業に興味を持ち、大学時代は起業サークルで活動していました。

卒業後はそのまま起業することも考えましたが、「新しいものを創造する」という経験をしたくて電通に入社。クリエイティブ部門に在籍していた頃、スタートアップ支援に携わる機会があったのですが、そのときに「起業を見据えるならやっぱり事業会社・スタートアップに行かなきゃダメだ」と考え直し、年収35%ダウンでハンドメイドマーケットプレイス『Creema』を運営するクリーマへ転職しました。

当時のクリーマは競合企業に約2倍の流通総額の差をつけられていましたが、4年かけて逆転することができ、さらに東証マザーズ(現:東証グロース)への上場も実現。大きな成果を出せたことで自信もつき、2023年に起業したという経緯です。

ー「AI×人材」という未経験の領域を選んだ背景には、どのような経緯があったのでしょう。

名古屋 100案くらい検討した中で行き着いたのが、求職者にスキルトレーニングを実施して企業に送る「転職ライザップ」的なビジネスモデルでした。HR領域を選んだのは、クリーマ時代に「チームの力で成果を上げた」という経験をしたから。企業の成長に必要なのは「人」であると確信した経験だったので、そこを支援する事業をやりたいと思ったんです。

ところが、創業した初日にChatGPTのAPIがリリースされ、様々なアプリケーションにChatGPTを組み込むことが可能に。最初に考えていた転職エージェント事業はAIとは関係ないものでしたので、世の中のトレンドを踏まえたらChatGPT APIを活用しない手はないと思い、創業初日にピボットを決意しました(笑)。

そこからAI×人材のサービスをいくつか立ち上げたのですが、なかなかうまくいかず…。当初のエージェント事業も並行してやろうと思い、準備していた中、こんなものがあった方が良いなと考えたのが「フルカスタマイズの気の利いたスカウト文章をAIで作成する」というサービスでした。どんなプロンプトならいいスカウトができるかをかなり深くまで突き詰め、完成したスカウト文を自社のエージェント事業で運用してみたら数字が伸びたため、サービス化を決断。企業の採用ご担当者300人以上にヒアリングを重ねて、現在の『エースジョブ』が誕生しました。

ー『エースジョブ』誕生の裏には様々な紆余曲折があったのですね。スタートアップの経営者となった今、電通とクリーマでの経験はどう活きていると感じますか。

名古屋 電通ではメディア部門とクリエイティブ部門を経験しましたが、メディア部門では相手の気持ちを推し量る想像力や交渉力など、ビジネスの基本となるソフトスキルが鍛えられました。クリエイティブ部門で身についたのは、思考プロセスを言語化するスキル。「こういう思考プロセスで考えていくといいアウトプットが生まれる」というのをAIに明確に指示できるので、プロンプトの質が非常に高まっていると思います。

クリーマでは、マーケティングとプロダクトの担当役員を務めましたが、プロダクトのつくり方やかかる工数がわかるようになったことは現在にとても活きています。また、IPOの経験も、今後自社を成長させていく上で必ず活きてくる経験だと思っています。

主力サービスも実績もない創業期に、様々な角度から魅力を引き出してくれた

フォワード名古屋氏、ジャフコ長島

ー2024年4月、ジャフコをリード投資家に据えて、シードラウンドで累計2億円の資金調達を実施しました。その経緯を教えてください。

名古屋 AIを使ったプロダクトをつくると決めた際に、今後の採用を見据えて資金調達を検討し始めました。ジャフコさんと最初にお会いしたのは、2023年7月のスタートアップイベント。VCの友人がパートナーの坂祐太郎さんを紹介してくれて、にこやかに話されながらも、鋭いまなざしがとても印象的で、「この人、ただ者じゃないな」と感じたのを覚えています(笑)。

長島さんとは、のちに面談の機会をいただいたときに初めてお会いしました。当時の僕たちはまだ社員2人だけで、『エースジョブ』の前のサービスが何とか走り出しているような段階。その2〜3ヶ月後に本格的に資金調達をすると決めてからは、補助金が決定していることやAI技術の特許をいくつか取得していることなど、シードなりのアピールポイントを懸命にご説明しましたね。

長島 名古屋さんの印象は最初も今も変わらず「何事にも一生懸命な方」。お話ししていてその姿勢がひしひしと伝わってきました。創業初期のタイミングで特許を取得するというスピード感にも驚きましたし、電通やクリーマでのご経験も豊富な方でしたので、資金調達するとお決めになる以前から気になる存在でした。

ーシード投資は実績で判断できない難しさがあると思いますが、名古屋さんのお人柄やご経歴の他に、長島さんが魅力を感じたのはどのような点でしょう。

長島 まず、生成AIという大きなトレンドをしっかり捉えていた点、そしてその技術を単なる話題性にとどめず、エンドユーザーのリアルな課題に根ざしたサービスへと昇華させようとしていた点に強く惹かれました。

少し言葉を選ばずに言えば、名古屋さんが当初構想していたサービスも、現在の『エースジョブ』も、決して派手さのある“キラキラした”事業ではありません。ただ、現場のお客さまが直面している課題というのは、そうした派手さとは無縁の、もっと泥臭くて現実的なところにある。その本質をしっかりと捉えていた点が、非常に印象的でした。

また、AIをあくまで“手段”として捉え、お客さまの課題解決のためであれば人の手も積極的に取り入れるという柔軟な発想にも共感しました。そうした姿勢があるからこそ、顧客の深いニーズに踏み込めるし、結果として、蓄積されるデータによってAIの価値もさらに高まっていく。この好循環を、名古屋さんならではのストイックさとスピード感で実現できれば、大きな可能性を持つ事業になると感じました。

ー投資実行をジャフコ社内で検討するにあたり、ハードルになったことはありましたか。

長島 フォワード社はまさにシード期ということで、定量的な実績よりも、これからの成長可能性をどう見極めるかがポイントでした。そこで名古屋さんにご相談してクライアント候補とお会いさせていただくなどしました。皆さんから生の声をお聞きしてみて、名古屋さんがやろうとしていることの可能性をより実感できましたね。

生成AIの進化が日々加速する中で、未来を読み切れない部分はもちろんあります。ただ、名古屋さんの人間性や行動力、そして仲間の巻き込み方を間近で拝見していて、名古屋さんならきっとやりきってくれるだろうという強い期待感を持てたことが投資の決め手になりました。

ー名古屋さんが最終的にジャフコを選んだ決め手は何でしたか。

名古屋 長島さんには、様々な角度から僕たちの良さを引き出していただき、コミュニケーションを重ねる度に信頼関係が深まっていくのを実感していました。

特に印象に残っているのは、初期のミーティングで当社が取得した特許の話をお伝えしたときのこと。僕の話を受けて、その特許について細かく調べてくださったようで、次のミーティングで具体的な質問や的確な意見を投げてくださったんです。そこまでやってくださるVCの方は他にいなかったので驚きました。自分たちが自信を持っている部分をきちんと掘り下げて理解してくださったり、先回りして意見をくださったりと、終始寄り添ったコミュニケーションをしていただけたと感じています。

また、この先の追加投資の可能性などを考えると、ジャフコさんのような大きいファンドは魅力的です。長島さんや坂さんへの信頼感、そしてVCとしての信頼感が、最終的な決め手になりました。

ー投資から1年以上が経ちますが、現在はどのようなコミュニケーションを取っていますか。

名古屋 月1回の定例ミーティングに加えて、状況に応じたミーティングや営業先のご紹介など細やかに支援いただいています。また、『エースジョブ』をジャフコさんの採用活動でご利用いただいたり、ジャフコ内の投資先HR支援チームと連携して動くことで、ジャフコの投資先にも使っていただいたりと、良好な関係性を継続させていただいています。

自らの価値に気づく人や企業が増えれば、社会は大きく前進する

ー資金調達を経て、今後どのように事業を拡大していきますか。

名古屋 売上は右肩上がりで伸びていて、1年前と比べると月商は10倍に。月額利用料に加えて成果報酬でも売上が積み上がっていくモデルなので、まだまだ上を目指せると思っています。

サービス面ですと、最近『エースジョブ』の新機能として「書類選考」を追加しました。大企業には年間1万件もの応募書類が届くので、その確認にかかる労力やコストを大幅に削減いただける機能です。

さらに、企業情報や求人情報を踏まえて魅力的なスカウト文を作成するという、『エースジョブ』の高度な思考プロセスとアウトプット力を応用した、「採用コンテンツ作成」機能も検討しています。人材業界はスカウトよりも求人広告の市場規模が大きいので、この機能を皮切りに求人広告市場を獲得していくことも、今後のビジョンのひとつですね。

ー「AI×人材」領域の事業を通じて、名古屋さんが実現したいのはどのような社会でしょうか。

名古屋 当社のミッションは「世界中の才能を、解き放て」。例えば、スカウトを受け取った求職者が「自分にこんな才能があったんだ」と気づいたり、企業の採用担当者がスカウト文を見て「うちの会社にこんな魅力があったんだ」と気づいたり、『エースジョブ』の言語化を通じて自身の価値を知るケースは多いと思います。

この先、企業の人手不足という社会課題は深刻になっていきます。人を採用できずに倒産を余儀なくされる企業は増えていくと思いますが、一方で、いい人を採用できれば会社をいくらでも成長させることができる。自分の才能や自社の魅力に気づき、一歩踏み出す人が増えることは、社会を前進させることにつながりますので、そのような未来を実現していきたいと考えています。

ーこれからミッションを実現していくにあたり、どんな方と一緒に会社を成長させていきたいですか。

名古屋 求める人物像としてよく使うのは、「価値と向き合える人」という言葉。顧客の価値、事業としての価値に真摯に向き合い、そのためなら手段を選ばずチャレンジできるかどうかは、当社の成長に必要なマインドセットです。僕も常にそこしか考えていなくて、「人からこう見られたい」みたいなプライドは全くありません(笑)。また、前例のないプロダクトや開発プロセスに挑むにあたっては、想像力も重要なスキルだと思っています。

当社では、数字の話も資金調達の話も全てオープン。社内のコミュニケーションの質を高めて、全員で事業をつくっていく手触り感を大切にしています。それは今の組織の規模感だからこそできることでもあると思うので、興味を持ってくださる方がいればぜひお待ちしています。

担当者:長島昭からのコメント

名古屋さん、フォワードの皆さんの熱量と勢いは本当にすごいです!派手さは無いですが、現場に眠るリアルな課題になりふり構わず泥臭く向き合い、それをAIで解決することで、お客様の成果に繋がっているだけでなく、多くの求職者の方に新しい可能性を与える存在になりつつあると感じます。『エースジョブ』が採用の常識を変えていく未来を強く信じていますし、これからも仲間として全力で応援していきます!