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【What's カンリー?】
株式会社カンリーは、「店舗経営を支える、世界的なインフラを創る」をミッションに掲げ、複数の店舗支援サービスを提供しています。
全国110,000店舗以上への導入実績を持つ、店舗アカウント一括管理・分析SaaS『カンリー店舗集客』の提供を始め、MEO対策を軸に、HP・動画作成・広告運用など、集客施策の実行自体を代行するBPaaSサービス「カンリー丸投げ集客」、スマートフォンアプリを通じて現在地で利用可能な割引優待を定額で何度でも利用できる「カンリー福利厚生」などを主要サービスとして提供しており、店舗ビジネスを取り巻く多様な課題解決と生産性向上に貢献しています。
創業:2018年8月、従業員数:165名、累計調達額:35億円 / シリーズC調達時
※2025年12月時点のもの
スタートアップの壁 - カンリー編。
スタートアップが直面する「壁」について、今回はカンリーにお話を伺いました。
これまでに動画でお届けした5つの内容の総集編としてご覧ください。
スタートアップの一体感を作るマネジメント術
<出演者> 代表取締役Co-CEO 秋山 祐太朗
三井住友銀行で法人営業、SORABITOで新規事業立ち上げの経験を経て2018年にカンリーを共同創業、Co-CEOを務める。「店舗経営を支える、世界的なインフラを創る」をミッションに、店舗DXを支援する複数のプロダクトを展開。
創業物語:共同創業の原点と事業の進化
カンリーは、秋山さんと辰巳さんが2014年の就活時に出会い、意気投合したことから始まりました。社会人2年目にルームシェアを開始し、2年間共に過ごす中で将来の構想を語り合い、社会人3年目の終わりに共同創業を決意。2018年8月15日に会社を設立しました。
創業時は宴会幹事代行サービスからスタートし、その後MEO(Map Engine Optimization)事業へと展開。飲食店の集客課題に着目し、Google マップを活用したソリューションを提供しました。コロナ禍を機に現在のSaaS事業へとピボットし、160名規模の組織へと成長を遂げています。
一体感をつくるマネジメント:バリューを軸にした組織づくり
カンリーは、組織の一体感を作るために「WINSESSION」という独自の仕組みを導入しています。毎週の表彰式で、「お客様の理想から入れ」「まずやってみろ」「圧倒的当事者意識」「利他主義でいこう」「正直であれ」という5つのバリューに沿って社員同士が投票し、バリューを体現した人を称える場を設けています。
採用においてもバリューとの適合性を最重要視しており、現在はリファラル採用率が40%(2025年6月時点)を超え、バリューを共有できる仲間が新たな仲間を呼び込む好循環が生まれています。
また、カンリーではオープンコミュニケーションを大事にしており、その一例として、秋山代表は「謝罪・指摘・感謝」というコミュニケーションのフォーマットについて触れ、建設的な対話を促進していました。そして、お客様、従業員、取引先、株主、社会という5つのステークホルダーの幸せの総量を最大化するという思想のもと、バランスを取りながら経営を行っています。
秋山さんは、共同代表制という特殊な経営体制を強みに変え、経営理念を発信し続け、具体的な仕組みに落とし込むことで持続可能な組織づくりを実現していると語っています。
その詳細や組織マネジメントの具体的な手法については、ぜひ動画をご覧ください。
<「スタートアップの一体感を作るマネジメント術」に関する動画はこちら>
カンリーが経験した事業転換の軌跡
<出演者> グロースマーケットユニット 営業統括部 部長 石井 克典
大学在学中にタイでのインターン・学生起業を経て創業期のカンリーに参画。SaaS事業のカスタマーサクセス組織の立ち上げや新規事業を推進。組織成長を支え、2025年8月からはSMB領域の営業統括部 部長を務める。
カンリーへの想い:創業期の参画と代表のビジョン
石井さんは2019年7月、創業1期目で事業もなく正社員も不在という段階でインターン生としてカンリーに参画しました。学生時代に起業経験を持つ石井さんでしたが、カンリーの両代表が語る1兆円規模の事業展開やグローバル展開といった、自身の経験では想像もつかないスケールの構想に魅力を感じ、カンリーへの入社を決意しました。代表の野心的なビジョンと、それを実現したいという強い意志が常に対話の中で感じられたとのことです。
現在、石井さんはグロースマーケットユニットの営業統括部長として、主に1店舗から9店舗規模の個店に対するマーケティング支援を担当。ツールの提供だけでなく、人的サポートを含めた包括的な集客最適化支援を行っています。
新たな事業の見つけ方:コロナ禍による事業転換の危機と決断
2019年12月に宴会の予約サイトをリリースした直後、新型コロナウイルスが発生し、カンリーは事業存続の危機に直面しました。MEO代行などのキャッシュエンジンも含め、既存事業の継続が困難な状況となり、誰も先が読めない中で、現事業の継続か停止か、新規事業の開発の是非など、毎日必死に検討を重ねていたといいます。
事業転換において最も困難だったのは、会社としての方向性を定めることでした。様々な事業案が出る中で意見が割れ、最終的には複数の選択肢を並行して進め、最も可能性のある方向性を見出していきました。当時は誰もSaaS開発や店舗経営の経験がない状態でしたが、顧客の声に徹底的に耳を傾け、そこからプロダクトを作り上げていったとのことです。
石井さんは、この困難な転換期を乗り越えられた理由として、組織の一体感と強いミッション・ビジョンへの共感が組織の求心力となったことを挙げています。結果として、事業転換時にも全社員が辞めずに事業のピボットを実現し、顧客視点に立ったサービス開発を通じて現在のSaaS事業へと成長を遂げました。カンリーの事業転換の経験は、危機をチャンスに変える組織の在り方を示しています。その詳細や当時の具体的な取り組みについては、ぜひ動画をご覧ください。
<「カンリーが経験した事業転換の軌跡」に関する動画はこちら>
プロダクトづくりの体制強化ノウハウ
<出演者>
株式会社カンリー 執行役員 CPO 兼 リードデザイナー 友近 玲也
多摩美大・慶應院卒後、Sansanで名刺アプリEightのリードデザイナーとして立ち上げに従事。独立後は企業のデザイン・PdM支援やBCG参画を経て、2018年に業務委託としてカンリー参画。2021年より執行役員CPOを務める。
株式会社カンリー 執行役員 CTO 小出 幸典
慶應院修了後、アクセンチュアでデータ活用プロジェクトを推進。Gunosyではアルゴリズム開発や基盤構築を行い2019年にCTO就任。2022年に業務委託としてカンリー参画。2024年より執行役員CTOを務める。
創業期の課題:ビジネスサイド中心の組織とプロダクト開発のギャップ
カンリーの代表2名は銀行と商社出身のビジネスサイド出身者であり、熱量高く人を巻き込み、モックアップで営業する「売りながら作る」スタイルで事業を展開してきました。しかし、顧客からのフィードバックをどう優先順位付けし、プロダクトをグロースさせていくかというノウハウは、チームとして持ち合わせていませんでした。
友近さんが2021年に入社した時点では、仕様書が存在せず「雰囲気」で開発が進んでいる状態でした。各画面の担当者が感覚的にエンジニアに伝え、エンジニアがよしなに作る。その結果、整合性が取れない設計となり、プロダクト全体がバラバラになりかけていました。友近さんは、仕様書文化のインストール、スクラム開発の導入など、プロダクト作りの体制をゼロから組み上げ直すことに約2年を費やしました。
同時に重要だったのは、ビジネスサイド中心の経営陣に「エンジニアの生態系」を理解してもらうことでした。友近さんは、エンジニアとビジネスサイドでは働き方や価値観が根本的に異なることを経営陣に伝え続けました。ビジネスサイドは社交的で人と話すことで成果を出すのに対し、エンジニアは集中する環境と時間を必要とします。こうした違いを理解してもらい、エンジニアの給与体系を世間水準より上に設定するなど、職種の多様性を受け入れる土壌を醸成していきました。
マルチプロダクト化と100名の壁:組織基盤が整う前のチーム分散
小出さんがCTOとして参画した頃、カンリーは「カンリー店舗集客」に加えて複数のプロダクトを展開するマルチプロダクト化が進んでいました。新しいプロダクトが増えるたびにチームが組成される中、組織としての基盤が整う前にチームが分かれてしまったことが新たな課題となりました。
「カンリーでは開発をこういう風にやる」という共通の基準が統一される前にチームが分散したため、ガバナンスの観点から全てのプロダクトで同じレベルのものづくりができる体制の構築が急務となりました。
小出さんは、各チームのマネージャーと判断基準を揃えることに注力しています。評価基準においてもマネージャー間でバラツキがあったため、例えば「3等級のエンジニアに求められるレベル」といった具体的な基準を言語化し、ディスカッションを通じてすり合わせていきました。組織全体としての「芯」を作ることで、スケールできる体制を目指しています。
カンリーの強み:素直さとバリューの徹底
友近さんは、「バリューを徹底してきたから」組織が成熟できたと語ります。カンリーでは「正直であれ」「利他主義でいこう」などのバリューを、毎週金曜日の「WINSESSION」という表彰制度を通じて社員に浸透させています。創業1名の時から150名規模の現在に至るまで、一度も途切れることなくバリューを中心とした施策を考え続けています。採用においても、どれだけスキルが高くてもバリューやカルチャーに合わない場合は内定を出さないという徹底ぶりです。
小出さんは、カンリー全体の文化として「素直さ」があり、人の意見を取り入れることに抵抗がないことを強みに挙げます。外からいいものを取り入れて変化していく姿勢が、組織の前進を助けています。
友近さんと小出さんは、組織づくりにおいて「チームの中心となる思想を持ち合わせること」と「同じ価値観・判断基準で前に進めること」の重要性を強調しています。カンリーの組織づくりは、バリューを徹底し、職種間の違いを理解し合い、目線を揃えることで困難を乗り越えてきました。その具体的な取り組みや施策の詳細については、ぜひ動画をご覧ください。
<「プロダクトづくりの体制強化ノウハウ」に関する動画はこちら>
既存事業と新規事業を共に成長させる両利き経営のコツ
<出演者> 代表取締役Co-CEO 秋山 祐太朗
両利き経営への挑戦:店舗の人手不足という課題から
カンリーは「店舗経営を支える、世界的なインフラを創る」というミッションを掲げていますが、約3年前まではマーケティング領域の事業のみを展開していました。しかし、店舗経営者から最も大きな課題として聞かれたのが「人手不足」の問題でした。年間1,000人採用して1,000人辞めてしまうような企業も存在する中、経営により大きなインパクトを与えるためには、マーケティングに加えてHR(人材)領域でも支援できるのではないかと考えました。
秋山さんは、共同代表制でトップが2人いる強みを活かし、「飛び地」の新規事業を作ることで、より早く経営にインパクトを与えたいと考え、両利き経営をスタートさせました。当時、主力の「カンリー店舗集客」はリリースから2〜3年が経過し、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成して一定軌道に乗ってきたタイミングでした。連続的な成長だけでなく、非連続的な成長も実現できる可能性があり、上場前の今だからこそ大胆に飛び地の領域に勝負すべきだと判断したといいます。
両利き経営の困難:飛び地の新規事業と対話の重要性
秋山さんは、シリーズB前後の企業が飛び地領域の新規事業に取り組むことは非常に難しいと率直に語ります。カンリーはマーケティングのバックグラウンドで成長してきた企業であり、HR領域に本格的に参入するのは初めての試みでした。HR領域の専門知識も十分にない中で、既存事業を力強く成長させながら新規事業を飛び地で成功させることは、非常にハードルが高いものでした。特に、既存事業の屋台骨を力強く伸ばし続けることがスタートアップにとって本質であるため、そことのバランスのつけ方が非常に難しかったといいます。
カンリーは、「勝ち筋はどこにあるのか」を徹底的に考え抜くことを重視しました。福利厚生の新規事業においては、店舗の従業員・アルバイト・パートに特化し、マップで探せる構成を採用。元々マップ領域の事業で培った仕組みや基盤を活かしたHRの新規事業として、この方向性がPMFしてきているといいます。
もう一つ重要だったのが、「対話を諦めないこと」です。秋山さんは、社外取締役としてユーザベースの代表・稲垣さんに入っていただき、共同代表としての両利き経営への向き合い方や苦悩を相談してきました。また、カンリーの役員やメンバーは当事者意識が非常に高く、率直にフィードバックをくれるチームです。秋山さん自身も反省や至らぬ点を感じながら、ぶつかり合いながらチームとして変化し、学びに変えて勝っていくことをやり続けられているといいます。
秋山さんは、両利き経営を目指すスタートアップへのアドバイスとして「コミュニケーションを大切にしましょう」と強調します。共同代表の辰巳さんとは毎週1on1を実施し、毎週ジムに行きながら経営のテーマについて言い合いながら一緒に乗り越えてきた関係ですが、それでもコミュニケーションの時間は足りないといいます。既存事業・新規事業を背中合わせで進めた時には、つい互いに任せることでコミュニケーションを疎かにしてしまったと振り返り、小さなギクシャクすらも絶対に見逃さないという思いで、コミュニケーションにコミットすることが重要だと述べています。
秋山さんは、カンリーの本当に持っている想いは「世界で勝ちたい」という想いだと語ります。創業日を8月15日(終戦記念日でありナポレオンの誕生日)にしたのも、世界の歴史にインパクトを与えていけるような事業をしたいという想いからです。共同代表という強みを活かして、まずはアジアナンバーワンを取るという目標を掲げ、世界で勝っていく企業を目指しています。その強い想いについては、ぜひ動画をご覧ください。
<「既存事業と新規事業を共に成長させる両利き経営のコツ」に関する動画はこちら>
AI時代の起業家に必要なコミット力とは?
<出演者> 代表取締役Co-CEO 秋山 祐太朗
過去の壁:オフショア開発の失敗とコミット不足
秋山さんは、起業家として最も大きな壁は「サービス開発」だったと振り返ります。幹事代行サービスからスタートしたカンリーは、秋山さんと共同代表の辰巳さんがともに銀行と商社出身のビジネスサイド出身者であり、エンジニアリングの知識がありませんでした。
コロナ禍の真っ最中にSaaSの「カンリー店舗集客」を立ち上げる際、社員エンジニアは1人しかおらず、リソースが不足していました。そこで選択したのがベトナムのオフショア開発でしたが、これが綺麗にうまくいかなかったといいます。開発の納期やクオリティの問題が発生しましたが、秋山さんは「開発会社が悪かったのではなく、自分たちのスタンスやコミュニケーションに甘えがあった」と振り返ります。
秋山さんは、社運をかけた新規事業でSaaSをいきなり作ろうという状況であれば、運命を握っているCTOやオフショア会社に対して、自分たちが毎月ベトナムに行く、画面を見る、夜は和食に連れて行って美味しいビールを飲むといった人間的な繋がりやコミュニケーションが絶対に必要だったと語ります。こうした部分をおろそかにした状態で、オフショアという手段に頼ったスタンスが大きな反省だったといいます。
起業家としての学び:自分ならではの角度でコミットする
この経験から、秋山さんは「開発を誰かに放任するのではなく、自分ならではの角度でコミットする」ことを決めました。例えば、HR領域の新規事業をやるのであれば、店舗の採用の現場や人手不足の現状を知るために、タイミーを使って仕分けや皿洗い、品出しなど、全国で実際に働いてみたといいます。店長に採用の実態を聞き、アルバイトの人と仲良くなることは誰でもできることであり、こうした現場への直接的なコミットが重要だと語ります。
また、最も重要なのは採用です。秋山さんは、最高のエンジニアを何度も食事に誘って口説き、自分で連れてくることの重要性を強調します。現在の経営チームにいる開発系メンバー3人、CPOの友近さん、GunosyのCTOだった小出さん、ビズリーチでAIチームを立ち上げた萩野さんは、全員リファラルで採用したメンバーです。ビジネスサイド出身で苦手だからしょうがないではなく、経営チームとしてどうチームで乗り越えるかを本気でコミットした結果だといいます。
秋山さんは、起業家へのアドバイスとして「コミットしましょう」と一言で表現します。起業家として苦手なことや、会社の本質的な課題から逃げない。腹を括るしかないと思ったと語ります。
未来の壁:SaaSからAIカンパニーへの進化
秋山さんは、カンリーの未来について「SaaSの会社」から「店舗領域におけるAIの会社」へとステージを上げていきたいと語ります。これはSaaSを捨てるという意味ではなく、SaaSで培ったデータベースや現在10数万店舗の顧客基盤を活かして、AIを用いることでAIだからこそ解決できることを実現していくという意味です。
カンリーは、飲食店向けのマーケティングツールの会社という見方をされることがありますが、実は飲食以外の顧客の方が圧倒的に多く、小売店、サービス業、教育機関、介護施設、不動産など多岐にわたる店舗を支援しています。その中で、SaaSに加えてAIも活用し、集客や人手不足の課題に取り組んでいける会社を目指しています。
具体的な取り組みとして、秋山さんは2024年夏に「CIO(チーフインキュベーションオフィサー)」だった萩野さんを「CAIO(チーフAIオフィサー)」に変更しました。萩野さんはビズリーチでAIチームの立ち上げや先端技術戦略責任者を務めていたメンバーであり、会社としてAIで業務改革を行い、お客様にAIを通して価値を提供することにフォーカスしています。新規事業をリードしていたメンバーもAI推進室に参画し、最高のチームを作っています。
世界で勝つ日本の店舗を支える:海外展開への想い
秋山さんは、AIの活用は手段に過ぎず、重要なのはお客様の成功につなげることだと語ります。特に重視しているのが「海外での活躍」です。日本の店舗は世界で勝っていけるポテンシャルがあり、秋山さん自身もダイソーブラジル店のオープンに立ち会い、地球の反対側でも日本の店舗が勝てることを目の当たりにしました。
日本の店舗1店舗1店舗がアジアを超え、世界で勝っていくために、この時代の大きな変化であるAIの活用は必須だと考えています。AIを通して店舗経営を支えていける会社になること、これが秋山さんにとって最も注力するテーマです。ビジネスサイド出身で技術が苦手だった秋山さんと辰巳さんですが、今はチームで勝っていける会社になってきたと語り、AI企業への変革をしっかり率いていきたいと力強く述べています。カンリーの目指す未来については、ぜひ動画をご覧ください。
<「AI時代の起業家に必要なコミット力とは?」に関する動画はこちら>