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エンジニアからCEOへ ビジネスチャットで実現する 「働き方改革」【Chatwork 山本 正喜 & JAFCO】
エンジニアからCEOへ ビジネスチャットで実現する 「働き方改革」【Chatwork 山本 正喜 & JAFCO】

起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、ビジネスコミュニケーションツール「Chatwork」を開発・提供する、Chatwork株式会社 代表取締役CEO 山本正喜氏と、ジャフコ担当キャピタリストの小沼晴義による対談です。

【プロフィール】
Chatwork株式会社 代表取締役CEO 山本 正喜 (やまもと・まさき)
電気通信大学情報工学科卒業。大学在学中に兄(山本敏行氏)と共に、EC studio(現Chatwork株式会社)を2000年に創業。以来、CTOとして多数のサービス開発に携わり、Chatworkを開発。2011年3月にクラウド型ビジネスチャット「Chatwork」の提供開始。2018年6月、兄のあとを引き継ぐ形で代表取締役CEOに就任。

【What's Chatwork株式会社】
2011年3月に、業務の効率化と会社の成長を目的としたメール・電話・会議に代わるビジネスコミュニケーションツール「Chatwork」の提供を開始。それまでなかったビジネスチャットの市場を開拓し、多くのユーザーを獲得。これまでに281,000社以上(2020年8月末日時点)が導入している。2019年9月東証マザーズに上場。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げ、目指すビジョンは「すべての人に、一歩先の働き方を」。

Portfolio

ビジネスチャット市場が活性化、攻めの経営で資金調達へ

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小沼 最初の出会いは、2015年2月でした。マネーフォワードの辻庸介社長からの紹介で、創業社長の山本敏行さんにお会いしました。Chatworkさんは「外部から資金調達しない」「上場しない」という経営ポリシーだと聞いていたので、何か方針が変わったのかなとお伺いしたのを覚えています。

山本 兄と一緒にEC Studio(Chatworkの前身、2000年創業)を立ち上げたときから、組織や経営に対する哲学がありました。「社員は40人以上にしない」「売上の上限を定める」等の「しないこと14か条」を作っていて、その中に「他から資本を入れない」「株式公開はしない」という内容があった。目指したのは、小さくて強い、永続する企業。自己資本100%の無借金経営にこだわっていました。

小沼 働き方についても、「顧客と会わない」「紙は使わない」「固定電話を置かない」等、尖ったことをされていました。大きな転機は、2011年にリリースした「Chatwork」の存在ですよね。

山本 それまでも様々な事業を手掛け、それなりの売上はありました。でも、Chatworkの広がりはかつてないレベルだった。資金調達を考えたのは、ビジネスチャットの市場が大きくなっていったことも要因としてありました。

そもそも僕がChatworkの開発を始めたとき、兄を含む社員全員が懐疑的でした。その直前に、僕がCTOとして社運をかけて開発したサービスが大コケをしていたんです。「ビジネスチャットのニーズは確実にくる」といっても説得力がないし、新しいサービス開発にかけるお金も人材もなかった。「まずは社内用に作らせてほしい」と業務外の時間で、一人黙々と開発を進めて機能改善を加えていきました。

だんだん、社内から評判の声が上がるようになり、社外のお客様からも「使わせてほしい」と言っていただけるように。そこで、正式にサービスとしてリリースすることにしたのが、2011年3月でした。

小沼 ビジネスチャットのサービスは国内に競合もなく、ものすごい勢いでユーザーが増えていきました。「それ見たことか」と思ったのではありませんか。

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山本 いやいや。前のサービスが2年で撤退していますから。そんな余裕はありません。
しかも、当時のChatworkのビジネスモデルは、無料プランから入り、有料になったとしても月額200円ほどのサービスです。我々のようなSaaSモデルは、うまくいけばいくほど、最初の赤字が深くなるといわれている。ユーザーからの改善要求が日々大量に届くので、その期待に応えるためにエンジニアを増やしたいけれど、人件費がありません。「月額200円をいくら積めば、エンジニアを雇えるだろう」と頭を抱えていました。他の事業で得た収益をすべてChatworkの機能改善に突っ込み、会社としての月次の赤字を避けるだけで必死でした。

2014年ごろまでは、エンジニアもほしい、マーケティングも強化したい、と思いつつも、セーブしながら事業を進めていました。考えが変わったのは、ビジネスチャット市場に競合が押し寄せてきたことです。

小沼さんが仰るように、Chatworkリリースから3年ほどは、国内に競合はいませんでした。でも、LINEやWhatsApp等のコンシューマー向けのチャットツールが世の中を席巻していくと、必然的に、仕事でもLINEやメッセンジャーを使う人が増えてくる。すぐに「ビジネスに対応したチャットツールがない」ということに世の中が気づき始めます。大きなビジネスチャンスがあると、名のある企業が続々と新規参入してきたんです。

小沼 約3年も先行していたとは、山本さんの「ビジネスチャットがくる」という確信がいかに的を得ていたかですね。

山本 でも、あとから追いかけてくるプレーヤーのレベルがすごいんですよ。スタートアップは、創業直後の段階から何億もの資金調達を進め、最初からかなりクオリティの高いプロダクトを出してきます。そうすると、ものすごく焦るわけです。

今までの経営ポリシーを貫くのなら、「小さな強い組織で、無借金経営を続けよう」「ダメだったら次の事業をやろう」と楽しくやっていけば良い。でも、そうなれば、Chatworkを使っていただいた多くのユーザーを裏切ることになります。チャットツールは、一度導入すれば、そこにログが蓄積されていきますから、すぐにやめることができない。ユーザーの働き方改善に繋がるサービスを作りたい、投資して攻めたいという想いが強くなっていきました。市場を先行していた強みを活かして、世界に行けるチャンスがあるのに、踏み込めない自分たちへの歯がゆさがありました。
記事内画像③_Chatwork.jpg小沼 それで、資金調達へと動き出した、ということなんですね。出資したいというベンチャーキャピタルはいっぱいあったでしょう。

山本 そうですね。全部断ってきたのですが、今度は、こちらから「僕らって、イケてますかね」と伺いに行きました(笑)。

小沼 当時、パートナーとなるベンチャーキャピタルの選び方に、ポリシーはありましたか。

山本 「裏取り」には時間をかけようと、投資を受けた起業家たちに話を聞いて回りました。中でも、マネーフォワードの辻さんには、資金調達の仕方を何から何まで教えていただいた。「ベンチャーキャピタルのアタックリスト」もすべて共有いただいた上で、ジャフコさんが良いと断言されたんです。

そして、2016年1月に9億円を投資していただきました。資金力は大きな魅力でしたが、出資先に対してアドバイス以上の人的支援をしてくれるところは、ジャフコさんにしかない良さだと思いました。マーケティング・セールス支援やHR支援の専門部隊があり、全面サポートするという組織力はすごい。小沼さんにも、社外取締役として、個性がバラバラな取締役メンバーをうまくまとめていただきました(笑)。

小沼 大変恐縮です(笑)。Chatworkは、自然流入のユーザーが多いサービスでした。資金調達後に初めて法人営業の部隊を作られて、大変なことも多かったんじゃないですか。
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山本 そうですね。営業の仕方も営業組織の作り方もろくにわからないまま「営業部門を作って事業拡大に繋げます」と事業計画を作っていました(笑)。小さな仲良しチームから脱すべく、資金調達によって外から強い個人を連れてきたのですが、みんな別々の方向を向いて本来の力が全く発揮されない。"スタートアップあるある"の罠に、しっかりとハマりました。

成果が得られず、日々胃痛と戦いながら、強化したのはデータ分析でした。営業のバリューの可視化をしようと、一顧客の開拓に使われるコストや、ボトルネック、KPIの設計をひたすらデータに打ち込んでいた。そうした地道な積み重ねが、2018年前半にようやく数字に表れてきました。


2018年のCEO就任から、Chatworkは「スタートアップ」に変わり切った

小沼 中小企業的な経営をされていたChatworkさんが、資金調達を経て「スタートアップ」に変わり切ったのは、山本さんが2018年6月にCEOになってからだと思っています。ずっとCTOとして技術力を支えながら、実質的にCEOとしての仕事も担ってきていた。「いよいよ、CEO兼CTOの顔が見えるな」と楽しみでした。スタートアップとしての新たな将来像を描き直そうという想いはあったのでしょうか。

山本 ノリではなく、ロジックで決める方針に置き換わったかもしれないですね(笑)。
CEOになってまず行ったのがミッションのアップデートでした。CEOとして取り組むべき仕事、組織課題等をどんどん書き出していったら、すべてが「僕らは何をミッションに仕事をすべきか」に結びついていった。そこでできたのが「働くをもっと楽しく、創造的に」というミッションです。

創業時のゼロから1を生み出すときには、パッションが何よりも重要です。ストレスフルな環境でも前向きに突っ走れる力がなくては、新しいものはできない。でも、1から10、10から100へと組織を大きくしていく過程では、組織をどう体系的に動かしていくかが課題となる。そのときにはロジックやコンセプトがとても大切になります。

僕はCTOとして、コンセプトに基づいたプロダクト開発をずっと続けてきました。その点では、良いタイミングで世代交代ができたのかもしれません。

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「ITで強い日本」を牽引する存在になりたい

小沼 2020年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ビジネスチャットの重要性を再評価されているタイミングだと思います。Chatworkのプロダクトオーナーである山本さんが、5年後、10年後にどういうプロダクトに進化させていくのか。非常に楽しみです。

山本 2019年9月に上場し、「社会を支える一つの組織になった」と実感します。そして、時価総額の高い評価をいただけている今、SaaS企業として「ITで強い日本」を創るのが、僕らの責任なのではないかと考えています。

日本はSaaS領域において、グローバルの存在感が全くありません。日本人エンジニアの高い技術力も、日本独自のカルチャーも、もっと世界で評価されて良いはずなのに、ポテンシャルがそのまま眠っている。海外SaaS企業との圧倒的な時価総額の差にひるまず、グローバルの市場を取りに行き、ITを日本の競争力にしていく。その一翼を担いたいです。
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小沼 良いですね。心から期待しています。今後、M&A等の戦略的な資本提携があるときには、また繋がっていけたら嬉しいですね。

山本 ジャフコさんと、「一緒の船に乗っている」という感覚は今も変わっていません。しんどいときを乗り越えてきたからこそ、これからもぜひ繋がり続けていきたいです。ジャフコさんは、「スタートアップ」という言葉がないときからベンチャーキャピタルの歴史を作ってきた会社。積み重ねてきた実績とネットワーク、投資先企業を支える組織力は他社を圧倒していると思います。ジャフコさんが存在感を強めるほどに、ベンチャーキャピタル市場も多様性が広がり、スタートアップの発展に繋がっていきます。どう変化していくのか、楽しみにしています。